時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

未来に生きる政策構想

2021年09月25日 | 特別トピックス



間もなく2年近くなるコロナ禍のさなか、突如自民党総裁の交代騒ぎ。政治家にとっては重大事だろうが、自民党内の票の取り合いに過ぎず、多くの国民にとっては別次元の話だ。国民不在の政治劇に過ぎない。

中国の急速な拡大、アメリカの地盤沈下の間で、国力低下が顕著な日本にとって考えるべきことは、次々と現れる新型ウイルス、台湾、北朝鮮などが関わる有事、多発・激化する気象災害、人口減少に伴う競争力低下、高まる財政破綻の重圧など、明らかに危機的状況にあるこの国をいかに再構築するかという全体構想が提示されないことだ。日本は何をもって激動する世界の中で、生き残り、独自の存在意義を発揮、保持しようとするのか。

与野党を含め、各候補が挙げる政策は、散発的とも言えるほど個別化しており、政策を貫く構想が全く感じられない。10年後、20年後に生きる次の世代が、明るい希望を抱けるだろうか。

アメリカの動き
9.11勃発後20年になる今年、中国の急速なプレゼンス拡大などで地盤沈下が著しいアメリカでは、現状を「危機 」crisisと考える受け取り方が急速に増加している。「資本主義 」capitalism ではもはや貧富の格差、社会の分断などを解決することはできないという認識も台頭している。資本主義をどう変えるかという議論は、かつてなく盛んだ。

そのひとつの動きとして、1930年代の「ニューディール」そしてその提示者となったフランクリン・D・ローズヴェルト(FDR)の果たした役割の再評価に関心が集まっている。世界大恐慌、ニューディールについては、この小さなブログでも意図してしばしば取り上げてきた。最近話題となっている一冊を素材に少し考えてみた。アメリカ現代史を理解する上で、必読とも言える著作である。

Eric Rauchway, Why the new deal matters, New Heaven] Yale University Press, 2021 
( 仮題:エリック・ローチウエイ『ニューディールが重要な理由』現時点で翻訳なし)

1932年のシカゴの民主党全国大会で、ローズヴェルトは、自分に、そしてあなた方アメリカの人々にとっての新しい政策 dealの導入を誓約すると述べた。

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N.B.
ニューディールが提示された当時のアメリカ経済は、1929年に始まった恐慌で文字通り危機的状況にあった。およそアメリカ国民の4分の1が職を失い、経済は2桁のマイナス成長を続けていた。
この中で、1933年以降FDRが実施した一連の経済・社会政策。失業者救済の大規模な公共投資や産業界への統制により経済復興を図り、のちには社会保障制度や労働者保護の制度改革を強めるなど、連邦政府権力を強め政府資金による資本主義経済の安定を目指した。代表的な立法や機関として全国産業復興法・TVA・ワグナー法・社会保障法などがある。
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民主主義の再生を目指して
ニューディールは、著者によれば経済にとっての回復プログラム以上の意味を持っていた。一口に言えば、アメリカの民主主義の再生プログラムであったと考えられる。

ローズヴェルトは大統領受託演説でも恒例の枠内に止まらず、自らの所信を述べた。FDRはひとつのプログラムを提示する。それは、「一国の厚生と健全さは、第一に多数の人たちが願望し、必要とするものであること、第二にそれを取得しているか否かを問わないという単純なモラル原則に基づいている」。

ローズヴェルトは演説の最後を次のように締め括っている;「これ(ニューディール)は、単なる政治的キャンペーン以上のものです;国民のみなさんに立ち上がってもらいたいというお願いです。単に選挙票を得たいということにとどまらず、この企てをもって、アメリカを皆さんのために再復活させる十字軍にしたいということです。そのために力を貸して欲しい。」

筆者がかつて師事した教師には、ニューディーラーが多かったことは以前に記したことがあるが、彼らは情熱をもってその経験を語っていた。今日まで、とりわけ民主党左派の人たちには、ニューディールの精神を受け継いている人々が多い。

ニューディールの核心は
ニューディールはしばしば大規模な経済刺激策と考えられてきた。確かにある程度はその通りである。1933年の全国産業復興法の下で、公共事業機関 Public Work Administration は$3.3 billion (今日の額でやく650億ドルを公共の事業やインフラストラクチャアに投下した。2年後に設立された雇用促進局(Work Progress Administration: 1935-43年)は、さらに、8年間におよそ2倍の資金を投じ、全国の労働力の15%以上を雇用しようとした。

しかし、ローズヴェルトは大統領就任受託演説で、「ニューディールは単なる復興プログラムではない・・・・・・。ニューディールの根本にある信念は、アメリカの民主主義はさまざまに制限され、歪められ今日に至っているが、強化、拡大されて放棄されることなく維持されるべきだ」と述べている。

ニューディールがその根本において目指したのは、FDRの発言に感じられるように、アメリカの生活における社会的正義の概念を広げるという理想にあった。経済の回復 restore と組み直し remodel を同時に目指したともいえるものだった。

在任中、ローズヴェルトは多くの、しばしば反動的な試練を経験する。例えば、 ボーナス・アーミー(Bonus Expeditionary Force)は、そのひとつだった。

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1932年6月に、アメリカ合衆国で、第一次世界大戦の復員軍人やその家族など、約31,000人が支給の繰り上げ支払いを求めて、ワシントンD.C.へ行進した事件。
この事件の鎮圧を担うことになったのは、戦後の日本に大きな影響を与えたダグラス・マッカーサーであった。しかし連邦軍の弾圧で女性や子どもを含む死傷者多数が出たこの事件は米国史の汚点といわれるまでになり、時の大統領フーバーは次の選挙で大敗した。
この出来事は、一部が暴徒化した人種差別への抗議の鎮圧に連邦軍を出動させる構えを見せたトランプ米大統領の発言と行動にもつながっている。
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貫く進歩思想
ニューディールの時期、アメリカの民主主義がどれだけ達成されたかは定かではない。しかし、ローズヴェルトの言葉を借りるならば、「文明は後戻りできない。文明は停止してはいけない。そのために我々は新たな方法を企画してきた。必要な限り、それを完全なものに近づけるために、必要とあらば改善を図らなければならない。そしてあらゆる場合において、前に進まねばならない。」(1934年1月の議会演説)

ニューディールが今日までさまざまに記憶されてきたのは、こうした理想を掲げ、少しでも前進しようとの熱意ではないだろうか。

ちなみに、ニューディールに投じられた予算規模は、他の時期と比較して格段に大きいというわけではなかった。

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N.B.
連邦予算規模:
1932年 フーヴァー大統領在任時の予算  約$4.66 billion
最大のニューディール予算
1936年 $8.42 billion
1939年 $8.84 billion
戦時予算
1943年 $79.4 billion
1945年 $98.3 billion
Source:Rauchway、 pp.175-176
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受け継がれる政策思想
バイデン大統領は、直面する複合的危機に対して、「左からの変革を目指す十字軍」と自らの立場を位置づけ、説明している。さらに自らは「FDR-サイズの大統領」を目指すとまで述べている。ニューディールへの思いは強いものが感じられる。

ローズヴェルトは当時の世界を”人間が創った世界” “man-made world” と形容した。その考えは2009年のグローバル・グリーン・ニューディール the Global Green New Deal などの構想に脈々と受け継がれてきた。ローズヴェルトのニューディールの構想は不完全にしか実現できなかったが、その後も根気よく追求されてきた。21世紀になっても、絶えず創造的な発想の源になってきた。

ほとんど一世紀近くになる時空を超えて、今日に受け継がれてきたニューディールの思想は、アメリカに活力をもたらす根源となってきた。政権交代に当たって、言葉だけが踊るような日本の政策環境とは大きく異なるものがそこにあることに着目したい。












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パンデミックの中に咲く芸術の花

2021年09月16日 | 午後のティールーム


パンデミックが芸術の領域まで大きな打撃を与えるとは、当初ほとんど誰にも見えていなかった。しかし、この新型コロナウイルス covit-19が音楽、演劇、美術などの世界に衝撃を与えている実態は次第に明らかになってきた。パンデミックがアメリカの芸術の領域へ与えた影響については、このブログでも紹介した。しかし、日本においては観光や飲食業そして東京オリンピック、パラリンピックなどに焦点が集まり、芸術などの分野でいかなる問題が生じているかについては、あまり報道がなされてこなかった。

たまたま目にしたTV番組がオーケストラの世界に起きた変化を報じていた。東京フィルハーモニー交響楽団(東京フィル)がコロナ禍の1年半に公演が開催できず、経営が圧迫され、演奏家たちの間でも喪失感や絶望感が浸透していた。

音楽公演は流行語となった「不要不急」なのだろうか? オーケストラの存在意義が問われていた。

世界的指揮者チョン・ミョンフンが名誉音楽監督である東京フィルはブラームス交響曲公演(東京オペラシティ)を今秋に予定していた。コロナ禍が収束しない今、はたして1年半ぶりのマエストロの来日を迎えて開演できるのだろうか。楽団員を含め焦燥感や苦悩が高まっていた。状況は一転、開催が決まり、歓喜のコンサートになる。

 チョン・ミョンフン 鄭 明勳(Myung-Whun Chung, 1953年1月22日 - )は、韓国・ソウル生まれの指揮者、ピアニスト。


BS! スペシャル「必ずよみがえる〜魂のオーケストラ 1年半の願い〜」9月15日 BS1午後8時

この番組を見ている時に脳裏に浮かんだのは、これもブログで紹介したことのある『
クレイドル・ウイル・ロック』The Cradle Will Rock(「ゆりかごは揺れる」の意味)という映画であった。ブログ筆者のご贔屓の映画だが、今では知る人も少ないだろう。1930年代ニューヨークで起きた出来事を取り上げた感動の作品だった。

1930年代の大不況の中で、アメリカン・ルネサンスと言われた1937年、ニューディールの一環として構想されたFederal Theatre Project 『連邦劇場プロジェクト』*をめぐる出来事が主題となっている。オーソン・ウエルズが映画化を切望したといわれる。彼も「ゆりかご」の中の一人として演出を担当していた22歳の青年だった。大不況で失業していた数万人の失業した演劇人を本業に復帰させようとの試みの一コマが取り上げられた。

このプロジェクトFTPは連邦雇用促進局の傘下で企図され4年間で3000万人の観客を創出すると期待されていた。

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N.B.
1929年10月24日、「暗黒の木曜日」The Great Crash として知られるウオール街の株式大暴落に始まった大恐慌は失業者1300万人を生んだといわれる。当時のアメリカ合衆国の人口は約1億5千万人であった。

上演が企画された演劇『クレイドル・ウイル・ロック』は非米的な内容だとして、政府は急遽中止を命令した。監督ティム・ロビンズは「表現すること」の自由を求め、関係者とともに開幕に向けて働いた。
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東京フィルの公演成功までの指揮者、楽団員などの努力はそれぞれ印象に残ったが、番組は掘り下げ方が足りなかった感がある。下敷きになる前例はいくつもあったので、もう少し考えればより感動的な映像作品になったろう。

その点、『クレイドル ウイル ロック』は、映画でもあり、周到な企画に支えられ、時代の息吹気が強く感じられる名作となった。芸術は閉ざされた人間の心、精神を解き放つ大きな力となりうる。閉塞したコロナ後の世界を生きる上で見直されるべき大きな要因ではないだろうか。


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復活するか;ハドソン川の白い帆

2021年09月10日 | 午後のティールーム

Frances E. Dunwell, The Hudson: America's River, New York: Columbia University Press, 2008, cover


世界中を震撼させた9.11から明日で20年が経過する。2001年9月11日、世界貿易センタービルにテロリストにハイジャックされた2機の旅客機が突入し、ニューヨークのダウンタウンは地獄絵図と化した。まさかと思っていた犠牲者の中には知人の息子さんの名もあった。世界は小さくなっているということを知らされた。

9月11日NHKTV 『「事件の涙」米テロ20年』で、Sさん夫妻が過ごした20年の苦悩の日々が報じられていた。改めて心から哀悼の意を表したい。
 
9.11やNew Yorkに関わる様々な報道や記事の中から少し明るい話題をひとつ。

軽妙な語り口で知られるタレント・レポーター、マイケル・マカディアさんの『 キャッチ!世界のトップニュース 』(NHK BS!) 9月10日のNYC@では、ニューヨークの西側を流れるハドソン川を小さな帆船で上下航し、流域の農産物や産品を運び、販売する試みが紹介されていた。

ハドソン川は”アメリカのライン川”(1939年『LIFE)』誌の命名)とも呼ばれたこともあったが、大変美しい川であり、この川を航行することで、アメリカ史の多くの出来事を知ることができる。

ブログ筆者の知る河川の中でも、セントローレンス川と並び、非常に印象に残る川のひとつになっている。このブログでもその一端を何度か記した*1

この川は全長500km余りでアメリカ東部を南北に貫いて流れている。上流のエリー運河(1825年12月完成)を使うと、五大湖までつながり、ヨーロッパが大西洋経由でつながることになった。アメリカ大陸の開発の歴史を見るように、沿岸には多くの風光明媚な地点と併せて著名な史跡が点在している。

TVで紹介されたのは、150キロ上流の町ハドソンから農産物などを帆船に積んで下り、ニューヨーク市内で販売するという試みである。帰途は市内の産品を載せて上流へ戻る。石油に頼らず「風で運ぶ」ことが狙いのようだ。かくして運ばれた商品にも付加価値が生まれる。

19世紀から20世紀初めにかけて、かつては白い帆をかけた多くの帆船が行き交ったハドソン川だが、その後の蒸気船航行*2に始まる水上の技術革新で、今は特別の行事などの時以外はほとんど見られなくなった。

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N.B.
*2  1807年、ロバート・フルトン Robert Fulton (1765 - 1815)の発明による初航海の蒸気船は、ニューヨーク港から上流のオルバニーまで、150マイルを逆風で32時間で航行した。帰途は30時間かかったが、向かい風でも無風でも蒸気機関の船は確実に航行できることを実証し、その後の蒸気船の発達に大きく寄与した。
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ハドソン川の風向きは15分ごとに変わるともいわれ、帆船にとっては決して航行が容易な川ではないようだ。しかし、このたびの帆走の試みで風力という自然エネルギーで航行する帆船が復活すれば、廃油などで汚染されないかつての美しいハドソン川の風景を楽しむことができる日も来るかも知れない。



*1
2016年9月1日

2009年12月8日

2009年9月21日

2009年7月21日

2009年5月10日

2005年2月19日
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新型コロナウイルスが変える世界の人流

2021年09月02日 | 移民政策を追って

人流が結ぶ世界

2020年年初から突如問題化した新型コロナウイルスのグローバルな次元への感染は、瞬く間に人類の運命に関わる世界的危機へと拡大した。21世紀が「危機の世紀」となることは、かなり以前から予感するものがあり、その一端はこの小さなブログにも記してきた。

世界史上、感染症が人類の生命を脅かす原因となったことは度々あったが、今回ほど急速かつ広範な地域へと拡大したことは例がなく、世界が大きな衝撃を受けた。地球上における人の流れ(「人流」フロー)とその集積(ストック)がかつてなく進行していたことが、こうした事態を生み出した背景にあった。

人流に関わるマイナス要因
国境を越える人の流れの増加は、主として労働の報酬、本国送金などの成果を通して、世界の経済にプラスの効果をもたらすと考えられてきた。グローバル経済を動かすエンジンのひとつであった。

しかし、人の移動や集積が経済や文化的活動にマイナスの影響を与える場合もあることが明らかになった。移民労働者などの国境を越える移動が、単なる労働力にとどまらず、人間のあらゆる属性を伴って行われているという明瞭な事実である。

今回のcovid-19の場合は、人の移動の増加が人間の健康面に与えるマイナス面をあからさまにした。感染者あるいはその運び手 career としての人の出入を阻止する動きが増加し、世界中で出入国制限の障壁が顕著に高まった。

2020年3月の時点で、少なくとも174の国、地域が人の移動に制限を付している。グローバル・サミット、オリンピック、パラリンピックなどの行事でも、人の移動について厳しい移動制限が行われている。

感染症への対応の強化
新型コロナウイルスが世界的に感染を見せ始めた2010年の年初の段階では、従来のインフルエンザとさほど違いのない感染プロセスを経て収束に向かうのではといわれてきた。しかし、covid-19の感染力は予想を超えて強力で、次々と新たな変異株を生み出し、2021年夏の段階でも収束の兆しはみられない。日本の新型コロナウイルスへの感染者数は、2020年9月現在で150万人を越えた。

1918年の”スペイン風邪”の流行当時と比較して、今回の新型コロナウイルスの感染の範囲は、大きく異なる。グローバルな次元での人の流れと集積がかつてなく重みを増したことにある。結果として、その衝撃も格段に大きい。単に人流の規模にとどまらず、各国の健康システム、経済に及ぼす影響もこれまでに例を見ないものになっている。

すでに2年近くになる感染拡大の過程で、グローバルな次元での人の移動の流れはかなり顕著な変化を見せ、現在も進行中である。2020年の人口移動の統計はまだ得られないが、恐らくこれまでの時系列の傾向を修正するような現象が起きているだろう。

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N.B. 2021年年央で確認できる主要な変化を記しておこう:
2020年年央時点で国境を越える労働者の数(フロー)は前年に比して約200万人減少、同期比では約27%の減少を記録した。
2020年において自国の外に居住する人々は約2億8100万人と推定され、インドネシア全体の人口にほぼ匹敵する。
2000年から2010年で、労働あるいは家族の再結合のために国境を越えた人々は約4800万人、2010年から2020年にかけては6千万人と推定される。
さらに、2000年から2020年にかけて難民あるいは庇護申請者として国境を越えた人々は17百万人とみられる。
2020年に職を失った外国人労働者は3400万人と推定される。
Source: United Nations, Department of Economic and Social Affairs, International Migration 2020

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人流抑制の兆し
人流の減少には、covid-19のの感染力が強く、感染した場合の症状が重くなりがちであることが影響して、移民労働者も出来れば家庭にとどまりたいとの意向も反映している。その動きは中央アメリカからフロリダやカリフォルニアなど南部諸州での野菜や果実採取、バングラデッシュからのアブダビ、カタールなど中東諸国での建設労働者、メルボルンや東京でのインド人起業家など、ほとんどあらゆる場面で人の流れにブレーキがかかっている。

グローバル次元での格差拡
コロナ禍以前のように効率的に移動ができなくなった労働者が増加し、世界的にも所得、富などの格差も拡大している。とりわけ、自国の労働者の海外からの送金に大きく頼ってきたフィリピン、バングラディシュ、ホンジュラス、ガーナなどに代表される国々は衝撃が大きい。結果として、中長期的に貧富の格差拡大が固定化する傾向がすでに見出されている。統計が得られる2018年時点で開発途上国全体が受け取った海外からの送金額は5290億ドルであった。

新たなグローバル・リスクへの備え
国際レヴェルで導入されているさまざまな制限措置は、感染リスクが軽減、低下した近い将来においてもすぐには撤廃されない可能性も指摘されており、国際的な人の流れはコロナ禍以前と比較して停滞することも予想されている。

他方、2021年夏の段階で重大な関心事となっているアフガニスタンなどからの難民、庇護申請者などの増加が予想される。

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N.B.
COVID-19の危機は、移民とその統合に向けての進歩を脅かしている
The OECD International Migration Outlook 2020 によれば、COVID-19が引き起こした危機で移民のフローにはかつてない変化が生まれた。ひとつの結果として、OECD加盟国の新規ヴィザ、入国許可の発行数は2019年前半と比較して、2020年前半に46%減少した。この下落幅はこれまでの記録で初めての大きなものである。
パンデミック以前の2019年においては、OECD諸国への永住を目指す移民の流れは、2017年、2018年とほぼ同水準の5300万人だった。難民の受け入れは少し減少したが、永住が目的の移民受け入れは、2019年には530万人に達していた。一時的な労働者の受け入れは5百万人以上の受け入れが記録された。
移民のフローは過去10年間増加を続け、受け入れ国側でも移民の統合において一定の改善が見られた。しかし、こうした改善もパンデミックと経済的下降によってある程度消し去られた。各国政府はエッセンシャルな活動分野として、健康・安全に関わる労働者を確保することが求められ、彼らの社会と経済への貢献を確保するためにも財政支出と統合努力を維持することが強調されている。
労働需要の減少と高いスキル水準を持った労働者の間でのテレワークの増加と学生のリモート教育の浸透で、人の移動が顕著に減少した。



居住許可数が各国で削減され、2020年年初以降人のフローが減少している(下掲)
OECD統計

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covid-19の収束がいつになるか、今の時点では不透明なところが多い。しかし、2022年以降まで持ち込まれることはほとんど確実になっている。

covid-19に限らず、新たなウイルス・細菌などによる感染症拡大のリスクは将来においても予想されることであり、地球温暖化などの気象条件、戦争などの勃発リスクと併せ、地球規模で対処しなければならない重要課題が増大している。








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