映画「博士と彼女のセオリー」(原題:The Theory of Everything)をご覧になった方はどのくらいおられるのだろうか。ブログ筆者はかねて見たいと思っていたが、その機を逸していた。封切り以来、10年近くが経過してしまっていた。この度、偶々、TVで見ることができた(2024年11月27日BS1、映画は日本では2015年に封切られた)。大変美しい感動的な映画であった。
イギリスの理論物理学者スティーブン・ホーキング博士 Stephen William Hawking(1942-2018)の生涯を、元妻、ジェーン・ホーキングの回顧録に基づいて映画化したものである。博士はALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹患し、「余命2年」と衝撃的な通知を受けながらも、ジェーンと結婚、長女ルーシーも生まれた。彼女の献身的な介護を受けながら、偉大な成果を上げる。しかし、病気の進行とともに声、そして行動の自由も失い、ジェーンとも別離することになる。
しかし、離婚をしても、博士の生存中は3人の子供と共に良い友人関係を築いているというホーキング博士*とジェーンの関係が美しくも哀愁に満ちた情景が描かれている。
晩年、著書『ビッグバンからブラックホール』が世界的なベストセラーになり、アメリカでの授賞式にホーキング博士*が献身的な看護師エレインを連れてゆくと話したことから、博士とジェーンは離婚する。ジェーンは、教会聖歌隊でピアノ教師をしており、子供たちの父親の代理のように慕われていたジョナサンと結婚する。ジョナサンも博士の置かれた状況を良く理解した素晴らしい男性だった。そして博士はエレインとも5年後に離婚している。博士の病状も日を追って悪化し、彼女に加わる負担も大変なものだったろう。
*エディ・レッドメインの好演が目立つ。第87回アカデミー賞主演男優賞、第72回ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門主演男優賞などを受賞した。
ホーキング博士の病状の悪化と並行して、歩行や意思疎通が困難になり、それに併せて車椅子も介添人が手で押すものから、コンピュータや発声装置まで装備した高度なものへと進化してゆく。映画では、その変化が詳細に示されている。
映画の主たる撮影場所は、ケンブリッジのセント・ジョン・コレッジとクイーン・ロードなどがあてられたようだ。メイボール*の光景も筆者は見たことがあるが、大変美しい。
*ケンブリッジで卒業式の後、いくつかのコレッジで開催される公式のダンス・パーティなどの行事。
ブログ筆者は、ホーキング博士とは研究分野も何の関係もない領域であったが、1995-96年にケンブリッジ大学に客員として滞在していた。ホーキング博士は、その頃すでに大変著名な人物であったが、健康の点では比較的お元気な時期であったのだろう。毎朝筆者が駐車していた経済学部の前の道、シジウイック・アヴェニューを付き添いも誰もなく、電動椅子で舗装も十分でない道路を横断し、移動しておられた。時間帯がほとんど同じで、滞在中、幾度となくその光景にであった。その当時の経緯は、以前に上掲のブログに記したこともある。「世界は小さい」The world is small. という表現が当てはまる経験であった。