3月初旬にアメリカ、サンフランシスコから来日する予定だった友人から急遽、日本行きを取りやめるとの連絡があった。ご想像の通り、新型コロナウイルスの感染者が急増している日本へこの時期に赴くことへの心配、恐れが訪日をためらわせた理由だった。アメリカ政府も高齢者を始め、不要不急の用件がない限り、日本への旅行を差し控えるよう公示している。日本は新型コロナウイルス感染者が多く、旅行者にとっても危険な蔓延国として認知されているようだ。
他方、日本へ来て仕事をし、感染せずに帰国しても、現在のトランプ政権の下では、検疫後一定期間は特別施設などに強制的に収容される可能性があるとの恐れが訪日をためらわせるとのことであった。訪日中の会合、宿泊や会食の予定も全て取りやめることになった。予約をキャンセルされたレストランなども、この状況では仕方がないとあきらめているようだった。
感染者数が増えるばかりの日本では、全国の小中学校、高校、特別支援学校などに3月1日から春休みまで休校を要請するという異例の措置を発表した。教育界は降って湧いたような前例のない要請に、感染予防対策に右往左往の状態だ。さらに、北海道知事は2月28日、「緊急事態宣言」(2月28日~3月19日)を発し、それまでの空気は一変し緊張感が走った。ここでは「クラスター」(cluster; 集団、群発)連鎖を断つことが強調されている。
21世紀は「危機の世紀」
新型コロナウイルスの影響が世界レヴェルまで拡大したことで、21世紀が「危機の世紀」として後世に記憶されるであろうことがほとんど確定した。世紀の初めの9.11、そして3.11と衝撃的な歴史的事件が続いただけで、我々の生きている21世紀が歴史上でも特記すべきグローバルな「危機の世紀」となったことはほとんど自明となったが、この新型コロナウイルスの世界的な蔓延で決定的となった。
歴史的にも最初の「グローバル危機」といわれる17世紀、2度にわたる世界大戦(1914〜18年; 1939~1945年)と、その間に起きた大恐慌(the Great Crash;1929~)を経験した20世紀に続き、21世紀は冒頭から9.11さらに3.11として知られる衝撃的な事件で幕を開けた。
〜〜〜
*1929年10月24日 暗黒の木曜日 Black Thursday
ニューヨーク株式市場の株価大暴落、大恐慌始まる。この年659の銀行が倒産。翌年には1352件に増加
1932年7月20日 フランクリン・D・ローズヴェルト、民主党大会における大統領候補指名受託演説で「ニュー・ディール」New Deal を宣言。
*9.11 アメリカ同時多発テロ事件( September 11 attacks)
2001年9月11日、アメリカ合衆国で同時多発的に実行された、イスラーム過激派テロ組織アルカイーダによる4つのテロ攻撃の総称。
*3.11 東日本大震災
2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖大地震およびこれに伴う福島第一発電所事故による災害。
〜〜〜
このブログでは、特に意図したわけではないが、17世紀以来のグローバルな「危機の世紀」を、美術を中心とする文化、経済など多様な視点から掘り下げてきた。17世紀の画家たち、20世紀の政治や絵画などの文化的側面、例えば画家L.S.ラウリーなどの作品と生涯の探索などを通して、その輪郭はブログ筆者の脳裏では具体化が進み、なんとか形になってきた。18-19世紀にもそれぞれ危機があったが、ここではブログ筆者の関心事である「グローバル危機」の観点から、整理をしている。
グローバル危機を実感させた新型コロナウイルスの脅威
昨年末、中国湖北省、武漢に端を発した新型コロナウイルス蔓延の衝撃は、瞬く間に世界に拡大し、経済、政治の領域へ多大な影響を今も与えつつある。2月28日、ダウ平均株価は1190ドル近い下落となり、過去最大の下落となった。2008年9月リーマンショック*以来最大の下げ幅となった。日経平均株価は673円下落。
〜〜〜
*リーマン・ショック
2008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行リーマン・ブラザース・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的によぶ通称。「王リーマン・ショック」(和製英語)は、外国では、「2007年から2008年の金融恐慌」「国際金融危機」 などと呼ぶのが一般的である。しばしば、the financial crisis (金融危機)だけでこの事件を意味する。
〜〜〜
ブラックスワン型事象の台頭
このたびの新型コロナウイルスの世界的拡散を予知した人はほとんどいなかった。それだけに対応も遅れ、瞬く間に5大陸に感染者が広がった。このような「予想していなかった、ありえない」と思われる事象が突如として起きることを説明するに「ブラック・スワン理論」black swan theoryという概念が使われるが、今回はまさにその名に値する。「金融危機」などよりも遥かに予測が難しい。
さらに、今回の一連の展開を見て、多くの人々が「グローバル危機」なるものが、いかなる特徴と展開を示すかを肌身に感じたのではないだろうか。これまでの「グローバル危機」は、その範囲はグローバルであったが、影響を受けるのは投資家、労働者、あるいは被災地など、限られた人々の間にとどまルことがほとんどだった。しかし、このたびの新型コロナウイルス危機は、一国の最高指導者層といえども、感染すれば逃れることはできないという意味で、決定的なものとなった。ヒトの移動がプラスの面ばかりではないことも、深刻な形で実感させている。
現在、新コロナウイルスは急速な拡大過程にあり、その帰趨がいかなるものとなるか、客観的評価はもう少し時間を待たねばならない。アンテナを高くし、起こりうる風評に惑わされることなく、自ら正しいと思う道を見出さねばならなくなる。新たな「危機の時代」に生きる心構えが求められている。