平昌オリンピックも終り、TVや新聞のニュースも以前の軌道に戻りつつある。懸念された朝鮮半島での突発事件もなく、スポーツの祭典の目的をほぼ達成し得たのではなかろうか。オリンピックを政治的な目的に利用しようとの動きは見られたが、大きな進展があったとは思えない。
人々はオリンピック以前から続く環境の軌道へと戻ってゆく。前回記したように、いまは人の移動に適した時期ではないが、本格的な春の訪れとともに、移民・難民は目的達成のためにふたたび動き出し、問題は一段と深刻化するだろう。
前回はヨーロッパの最近の事情をみたが、今回はアメリカに目を移してみたい。しばらくメディアから離れていたあのDACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)問題に再び注目が集まりつつある。2012年オバマ大統領が行き詰った移民制度改革の中、大統領令で事態改善を図った問題だ。
対象は、子供の頃、親に連れられてアメリカへ何も知らないで不法入国していた子供たちのその後の処遇だ。幼い子供の頃、両親などとアメリカ国境を渡った子供たちが今やティーンエイジャーになっている。しかし、気づいてみると、彼(女)たちは自動車の運転免許証も持てないし、友達と海外旅行をすることもできない。アメリカ入国時に必要な書類を保持していないので、旅券も交付されない。入国審査官や警察官に身分証などの確認を求められた場合、強制送還される恐れがある。
こうした状況に、オバマ前大統領は事態の是正を図り、アメリカ在住の間、犯罪を犯すことなく、規定の学習水準を達成することを条件に、2年毎に更新できる救済策を設定した。これらの救済の対象となる「ドリーマーズ」Dreamers と呼ばれる人たちは70万人くらいと推定される。しかし、トランプ大統領になって彼らの将来は保証されなくなってしまった。オバマ大統領が議会で新たな支出なく制度を実施する手続きを踏んでいないからだとの理由である。
2017年2月、トランプ大統領はこの制度を本年3月5日で廃止すると発表した。しかし、サンフランシスコ連邦地裁などが本年1月、政権のDACA撤廃の大統領令に差し止め命令を出していた。
トランプ政権側は、判断を急ぐ必要があるとの理由で控訴裁判所(高裁)を通り越し、最高裁に上訴していた。これについて2月26日、アメリカ連邦最高裁はDACAの撤廃を審理しないとの判断を行なった。トランプ政権の訴えでは3月5日に打ち切られる予定だったが、現行制度は当面存続することになった。改めて包括的な移民制度改革が必要とされるが、トランプ大統領はかねて主張してきた国境壁の延長増築を具体化する動きに出るだろう。
壁で人の移動(不法移民)を阻止できるだろうか
専門機関(Pew Research Center) の世論調査(2018/1/19)では、「ドリーマーズ」には合法的永住権を与えるべきだとの考えを持つ人々は、調査対象者の74%近く、共和党支持者でも50%近くに達している。
さらに興味深いのは「壁」の増築問題への反応だ。「ドリーマーズ」へ合法資格を与えるべきだとし、「壁」の増築には反対と考える人々は、全体の54%、民主党系の人々では80%に達する。
論及すべき点は多いのだが、直裁にいえば、物理的な壁では不法移民(越境者)の十分な規制は期待できないとの考えが少しずつ増えているようだ。
その理由は、壁はより包括的な出入国管理政策の一部にすぎないからだ。かなり多くの人が今では、国境の壁の構築はそれに要する膨大な費用、必要な時間、管理コストを考えると、非現実だと思うようになっている。アメリカに入国している不法滞在者の実態が明らかになるにつれて、彼らのおよそ40%はアメリカに旅行者などで合法的に入国し、査証の定める期限を越えて滞在しているいわゆる「overstayers」であることが分かっている。
「壁」では不法越境者の流れを阻止できないとなると、何がなされるべきなのか。国境の存在を認める限り、真にあるべき出入国管理政策の構築が焦眉の課題となっている。実はアメリカ以上にこの重大な課題に迫られているのは、人手不足が多くの経営を脅かしつつあるこの国、日本であることに国民はまだ気がついていない。2020年は目前に迫っている。