E.T.A. Hoffmann, Nutcracker, Pictured by Maurice Sendak, London: THE BODLEY HEAD, 1984, pp.102
新型コロナウイルスの猛威に押し潰されそうな世界。多くの国で人々は外出も制限され、クリスマス・シーズンも家庭で静かに過ごすことを余儀なくされている。例年、どこからか聞こえてくる「第9」もほとんど聞こえず、全体に静かな年末だ。クリスマスで例年は賑やかなシーズンだが、外出するすることも適わないということになる。することも限られてくる
偶々、海外ラジオ番組を聴くともなしに聴いていると、チャイコフスキーのバレエ組曲『くるみ割り人形』が響いてきた。クリスマス・シーズンの西欧諸国では「第9」よりも「くるみ割り人形」の方がポピュラーだ。
バレエ音楽なので、華やかで心も多少は軽くなる。チャイコフスキーの3大バレエ『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『くるみ割り人形』は、いずれもこのシーズンに聴いていて楽しい。
『くるみ割り人形』の組曲を聴いている間に、一冊の絵本のことを思い出した。断捨離した記憶はないので、例のごとく、どこかにあるはずと未整理の書籍の山を崩し始めた。幸い比較的大型の本であったので、なんとかみつかった。チャイコフスキーは何を手がかりにこのバレエ音楽を作曲したのだろうか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
NB
*1
くるみ割り人形は日本人にとってすぐに思い浮かぶものではない。元来ドイツの伝統工芸品で、テューリンゲン州ゾンネンベルク、エルツ山地のザイフェン村など、山間部の地域の特産品として知られてきた。木製の直立した人形で、顎の部分を開閉させて胡桃を噛ませ、背中のレバーを押し下げて殻を割る仕組みになっている。しかし、日本の胡桃は殻が硬く、この人形では割れない。
※2
実は作曲家ピヨトル・チャイコフスキーは、童話作家ホフマン (E.T.A. Hoffmann )が1816年に書いた童話『くるみわり人形とねずみの王様』Nusknacker und Mausekonig を思い浮かべ、作曲の発想をしたようだ(ホフマンのこの著作には複数の邦訳もある)。ホフマン版はストーリーの展開が、夢と現実の区別があいまいで想像力を掻き立てられるとの評があるが、かなり難解のようだ。ブログ筆者はホフマン版を読んだことはない。チャイコフスキーが直接参考にしてしたのはホフマンの原作ではなく、アレクサンドル・デュマによるフランス語版小説(小倉重夫訳「くるみ割り人形」東京音楽社、1991年)とされている。さらに、チャイコフスキー作曲、プティパの振り付けで成功を収めた『眠れる盛りの美女』(1890年)の次作として、サンクトペテルブルグのマリインスキー劇場の支配人であったイワン・フセヴォロシスキーが構想し、チャイコフスキーに再度作曲を依頼したものであった。
チャイコフスキーが作曲したのはバレエ音楽であり、演奏時間は短く約1時間半(作品番号71)くらい。バレエ組曲ならば約23分である。
初演は1892年12月18日、サンクトペテルブルグのマリインスキー劇場だった。
当初はあまり人気が出なかったが次第に盛り返し、チャイコフスキーの主要作品のひとつとなった。バレエばかりでなく、多くのアニメ、映画、音楽作品が生まれている。
余談ながら「外出自粛の夜に オーケストラ孤独のアンサンブル」(NHK BS 2020/12/30)でも「花のワルツ」を演奏している奏者もいましたよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さて、このブログ記事で取り上げている絵本は、ホフマンの作品をモーリス・センダック Maurice Sendack が児童向け絵本として描いたものだ。ストーリーも挿絵もなかなか面白い。しかし、英語は1800年代のもので、それほど容易ではない。センダックは2012年に没した。
ストーリー自体は、子供向けとのことだが、(子供の心を持った)大人が読んでも結構面白い。話しはクリスマス・イヴから始まっている。音楽を聴いている人でも、ストーリーを知る人は不思議と少ない。しばし、コロナ禍を忘れ、音楽を聞き、メルヘンの世界に浸るには格好の一冊といえる。
Contents
INTRODUCTION
CHRISTMAS EVE
THE PRESENTS
MARIE'S FAVORITE
STRANGE HAPPENINGS
THE BATTLE
MARIE'S ILLNESS
THE STORY OF THE HARD NUT
THE STORY OF THE HARD NUT CONTINUED
THE STORY OF THE HARD NUT CONCLUDED
UNCLE AND NEPHEW
VICTORY
THE LAND OF DOLLS
THE CAPITAL
CONCLUSION
ACKNOWLEDGEMENTS