Cecco del Caravaggio, The Resurection, detail
前回掲示「復活」の部分
画面クリックで拡大
前回紹介したセッコ・カラヴァッジョの「復活」 resurrectionについてもう少し記しておこう。繰り返しになるが、名前は似ていても、あの17世紀ヨーロッパ画壇に一大旋風を巻き起こしたカラヴァッジオ、本名ミケランジェロ・メリージ Caravaggio, Michelamgelo Merisi da とは別の画家だ。しかし、両者は短い期間だが、師弟のような間柄にあった可能性もある。
セッコ・デル・カラヴァッジョについては、カラヴァッジョ(メリシ・ダ)のことをかなり知っている美術史家でも、気づくことが少ない画家である。二人の間にどの関係があったのか、ほとんど不明である。しかし、ある時期、多分1606年頃、二人は共にローマを離れ、ナポリへ行き、セッコはその後再びローマへ戻ったと推定されている。しかし、その画家としての生涯はほとんど何も明らかにされていない。
今に残る「復活」の大作、縦3メートルを上回るその大きさ、縦型の極めて斬新な構図、綿密に考えられたデザイン、細部まで克明に描かれたリアリズム、一見して圧倒的な迫力である。カラヴァジェスキの面目躍如だ。キリスト教徒であろうと否と、カラヴァッッジョを好きであろうとなかろうと、この作品が与える衝撃は大きい。一目見て、優れた力量の持ち主であることが伝わってくる。
画家としての人生も作品も、あらゆる点で破格、凶暴、狂乱、情熱など、激動の人生を駆け抜け、芸術家でもあったが犯罪者でもあったカラヴァッジョ(メリシ・ダ)だが、その追随者であるカラヴァジェスキは、総じてそれぞれ画家としてその軌道から大きく逸脱する人生を送ることはなかった。しかし、彼(女)らの画業がそれぞれいかなるものであったかは、必ずしも判然としない画家も多い。国際カラヴァジェスキ運動の研究成果などが、これまで知られなかった多くの新事実を明らかにしたが、多くは依然として歴史の闇の中に埋もれている。
セッコ・デル・カラヴァッジョにしても、作品は数点が確認されているが、その画家人生については、ほとんど不明のままである。名前も同じカラヴァッジョだが、二人の家族的あるいは地縁的関係なども不明である。
今日まで継承されている作品の中では、前回紹介した「復活」Resurrection だけが突出した注目作品だ。この作品、一見しただけでその劇場的とも言える迫力に息を呑む。描かれた人物の配置の妙、細部に及ぶ精密な配慮、リアリズムは、カラヴァジェスキの面目躍如だ。カラヴァッジョの画風についての好き嫌いは別として、17世紀美術の傑作に入ると思う。
「復活」の全体
クリックで拡大
この作品、「キリストの復活」というキリスト教史上の重要な事跡が題材だ。「マタイによる福音書28」(新共同訳)に記された次の下りに基づいている:
さて、安息日が終わって、週の初めの日の明け方に、マグダラのマリアともう一人のマリアが、墓を見に行った。すると、大きな地震が起こった。主の天使が天から降って近寄り、石をわきへ転がしに、その上に座ったのである。その姿は稲妻のように輝き、衣は雪のように白かった。番兵たちは、恐ろしさのあまり震え上がり、死人のようになった。天使は婦人たちに言った。「恐れることはない。十字架につけられたイエスを探しているのだろうか、あの方は、ここにはおられない。かねて言われていたとおり、復活なされたのだ。さあ、遺体の置いてあった場所を見なさい。・・・・・」(「マタイによる福音書28-10)。
この作品に描かれた人物は、総計8人、画面上部に復活したキリストが墓と思われる中から立ち上がり、左手にはバナーを持っている。そして、羽根のある天使。純白の羽根と衣装が見る人の視線を集める。天使の顔は通常よく描かれる可愛い幼子あるいは若い娘ではない。凛々しい、男性とも女性とも言えない強い意思を秘めた顔立ちで、左指で天を指している。そして、恐れおののく兵士だろうか、5人の男がそれぞれに描かれている(内、一人は注意しないと分からない)。そして画面最下段には、隊長だろうか。他の兵隊たちよリも立派な甲冑の胴着を身につけた男が眠っているのか、気を失っているのか不明なままに横たわっている。
上体部分を覆う甲冑、白い革製の着衣、靴にいたるまで克明に描かれている。そして右下に置かれたランタンは、カラヴァッジョ(メリシ)の「キリストの捕縛」を思わせる。カラバッジョ自身、この主題で製作したと伝えられているが、今は滅失して見ることができない。
この作品には、極めて興味ふかい点が多々あるのだが★、ブログとしては深入りすぎる。改めて、この「ほとんど知られていない傑作」(Fried, 2016,pp.109-133)を見てみると、カラヴァッジョ(メリシ・ダ)のような鮮烈、熱情のおもむくままに描かれた作品と比較して、十分な検討の上に制作された、画題にふさわしい傑作である。
★After Caravaggio, by Michael Fried, New Heaven and London: Yale University Press, 2016