このブログでも観測の対象としてきたアメリカ、アリゾナ州移民法に連邦最高裁の判決が下った。間もなく最高裁判決が予定されている医療保険法改革と併せて、11月の大統領選の行方を左右する大きな論争点の方向が定まる。アメリカ国内政治の舞台は急速に変わる。
6月25日、アメリカ連邦最高裁は、不法移民の取り締まり強化を目的としたアリゾナ州の州法をめぐり、連邦政府が憲法違反として撤廃を求めた裁判で、同法の大部分を退ける判決を言い渡した。ただし、警察官が個人の在留資格を確認できるとした条項については容認し、判決は5対3の多数意見として、移民に関する政策と法律を定める権限は連邦政府にあるとした。
判決の多数意見を代表して、アンソニー・ケネディ判事は「連邦政府は移民規制について重要な権限を持つ」とし、「アリゾナ州は不法移民問題について無理からぬ不満を抱いているだろうが、州は連邦法をないがしろにした政策を進めることはできない」と指摘した。
ただし、判決は、不法滞在を疑うに足る根拠がある場合には、他の法令に基づく執行をする際に、警察官が在留資格を確認できるとした条項については認める判断を示した。この条項に対しては人種差別につながりかねないと批判する声も強く、最大の争点の1つとなっていた。
アリゾナ州当局は、道路交通取り締まりの際に在留資格確認を開始するかどうかは現時点では分からないとの立場だが、同州のブリュワー知事(共和党)はこの判断について「アリゾナ州民および米国民にとっての勝利」だと評価、同条項が直ちに施行されることを期待すると述べた。
オバマ大統領は同日発表した声明で、全体として移民法改革が連邦の権限であることを評価した上で、在留資格確認により警察官が人種による選別を行う恐れがあるとの懸念を表明、「米国民が外見のみによって疑いの目を向けられることがあってはならない」と強調した。
一方で、最高裁は不法滞在を疑うに足る根拠がある場合には、他の法令に基づく執行をする際に、警察官が在留資格を確認できるとした条項については認める判断を示した。同条項に対しては人種差別につながりかねないと批判する声も強く、最大の争点の1つとなっていた。
アリゾナ州当局は、道路交通取り締まりの際に在留資格確認を開始するかどうかは現時点では分からないとの立場だが、同州のブリュワー知事(共和党)はこの判断について「アリゾナ州民および米国民にとっての勝利」だと評価、同条項が直ちに施行されることを期待すると述べた。この条項に合憲の判決がなされたこともあって、同様な内容を盛り込んだ州法を制定する州が増えている。
オバマ大統領は同日発表した声明で、在留資格確認により警察官が人種による選別を行う恐れがあるとの懸念を表明、「米国民が外見のみによって疑いの目を向けられることがあってはならない」と強調した。さらに、明白なことは議会が包括的移民改革の方向で行動しなければならないことだと述べ、州法による切り貼り的対応は壊れた移民システムの解決にはならないと付け加えた。
ホルダー司法長官は判決について「移民分野の規制に関して連邦政府に独占的権限があることが確認された」と歓迎の談話を発表した。
このように、判決は移民の規制は基本的に連邦政府の権限範囲にあるとの従来の路線を確認したものだ。しかし、判決はアリゾナ州移民法のすべてを違憲としたわけではなく、判事の間では5対3と割れており、州法の定める警官が不法移民の疑念を抱いた者に対して、合法な滞在を認める書類を保持しているかを尋ねることについて、全面的に否定はしていない。そのため、共和党員の間では、ある意味で自分たちの主張が通ったという自信も抱かせる結果となっている。現在のアメリカの二大政治勢力のあり方を微妙に反映した判決ともいえる。
この点について、大統領はメディアなどで俗に、「(滞在が合法かを確認する)書類を見せてください」条項 paper please provisionと呼ばれる対応の実際的な影響に憂慮していると述べ、アリゾナの法律施行者がこの法律をアメリカの公民権を破壊するような形で実行しないよう注意しなければならないと警告している。
今後の選挙戦で、移民法改革が医療保険法改革と並んで大きな争点となることは、ほとんど確実となった。見通しが困難な点は、アメリカ国民一般とヒスパニック系選挙民の間には、この双方の改革案について、考え方に大きな差異が生まれていることだ。
たとえば、アリゾナ州移民法については、一般の国民は警察官が不法移民ではないかと思う人物に、正規の滞在許可証を保持しているかを確認する([show me your papers])条項に、6割弱が賛成している。他方、ヒスパニック系では賛成は20%程度しかなく、75%は反対している(Pew Hispanic Center, June 25,2012).
他方、共和党大統領候補のロムニーは、国家的移民戦略の必要を強調した上で、オバマ大統領には、移民に関するリーダーシップが欠如していると批判するにとどめた。ロムニーはヒスパニック系の支持を十分確保できないでいるため、発言に慎重であり、こうした状況をもたらしているオバマ大統領の指導力不足というイメージを形成しようとしているようだ。
この連邦最高裁判決の評価だが、政治勢力の現状を反映し、ほぼそのまま暫定的に固定した、かなり政治的な含みを持たせた判決と考えている。たとえば、show me your papers 条項も違憲とすると、政策面で決め手を欠く共和党には決定的打撃となる。不満も鬱積するだろう。民主党は包括的移民改革の方向性は確認されたといっても、現実の議会運営では突破口を見いだせずにいる。アメリカの移民改革は州レヴェルでの保守性を強化しつつ、包括的な移民改革が可能かどうかの道を探ることになる。