Alexandre Dumas, The Three Musketeers, Penguin Classics, 2008, cover
あれ? このお兄さんたち、どこかでお目にかかりましたね。「三銃士」のイケメンでしたか。それにしては、時代が合わない? アレクサンドル・デュマ・ペールの名作「三銃士』が新聞紙上で活字になったのは、1844年のことであった。
ル・ナン兄弟(長兄アントワーヌ ca.1588-1648、次兄ルイ ca/1593-1648、末弟マティュー 1607-1677)が活躍したのは、それより200年くらい前ではなかったの? 実際、この歴史的事実に誤りはない。この作品や画家については、ジョルジュ・ド・ラトゥールと同時代の画家として、概略を本ブログで紹介している。ル・ナンも長い間忘れられた画家であった。
ちょっと不思議な因縁話。今日、ある書店で英文学のクラシックスの棚を見ていると、この表紙に惹きつけられた。先日、このブログで取り上げたル・ナン『三人の男と一人の少年』は、Penguin Classics series の1冊に入っている『三銃士』の英語版の表紙に採用されていたのだ。実は、『三銃士』は最初、フランスの新聞紙上に掲載された後、大変な人気作となったため、書籍として刊行されるようになってからも、フランス語から翻訳された言語の違いもあって、その表紙は何種類あるかわからないほど、様々なものがある。そのため、この表紙に出会ったことには、偶然とはいえ大変驚いた。
もちろん、この世界的な出版社がこの絵を表紙に採用するに際して、上記のような事実を知らなかったわけではない。当然承知の上で採用しているのだ。
しかし、この絵画作品には未解決の多くの謎が含まれている。そのひとつ、制作者とこれまで想定されていた画家末弟マティユーは、真ん中に描かれ、ただ一人、こちらを見ている若者ではない可能性が出てきた。確かに、当時の集団肖像画の慣行ならば、真ん中に描かれている若者が中心的制作者であることが多い。しかし、ル・ナン兄弟の他の作品について検討が進むうちに、どうもこの想定は必ずしも当たっていない可能性が指摘されるようになった。もしかすると、画家が描かれている人物が誰であるかを詮索の目で見る人を、からかっての作品かもしれないとの考えまで提示されるようになった。要するに、長兄、次弟、末弟が描かれた肖像のどれに当たるかが分からないよう、工夫されているという推測だ。
この作品、発見された当時、大変汚れていた。1968年ロンドンのNational Galleryが洗浄、修復を引き受けて、今日のような状態まで復元された。信頼に足る署名が残されていることも確認された。実は右側に男の子の顔が描かれているのだが、ル・ナン兄弟と思われる三人組と関係があるのかも判然としない。もしかすると、工房で習作のために画架に置かれていて、適宜筆が加えられていたのかもしれない。何れにしても、多くの興味ふかい未解決の謎を含む作品である。