私が中学生だった’80年代初頭。車のメーカーではとりわけ日産が好きであった。
当時のセダンでダントツにカッコよく見えたのが、ブルーバード910である。
CMキャラクターは、当時スーパースターだった、ジュリーこと沢田研二氏。
マイチェン後に追加された「4ドアハードトップ」が、これまたカッコよかった。
ボディタイプは多彩である。カタログで最初に紹介されているのは、4ドアハードトップ。当時の日産車のハードトップは、センターピラーの無い、正真正銘のハードトップだった。
トヨタが「4ドア・ピラードハードトップ」という紛い物のハードトップをリリースしていたこともあり、「やっぱ本物のハードトップを作る日産は、さすがだなぁ!」などと、当時の私は考えていたものだ。
あの頃は、ボディ剛性とか衝突安全だとかが今ほど重要視されていない、おおらかな時代だったのである。
続いて、4ドアセダン。ウエストラインの低い、ボクシ―でクリーンなラインが素晴らしい。
さらに、シャープな2ドアハードトップ。若者が乗っても決しておかしくない、若々しいイメージを持っていた。
インパネも直線基調で、整然と並んだ6連メーターが魅力的に見えた。SSS系には赤いストライプが施されており、そこはかとなくスポーティ。
センターピラーレスの室内からの眺めは、解放感に溢れていると思われる。
エンジンは多彩である。当時新しくリリースされた「CA型」を中心に、1600・1800・2000のNA、1800ターボ、2000ディーゼル、2000ターボディーゼルと、6本ものラインナップ!
燃費も、現代の水準には達していないものの、「ターボディーゼル」はなかなか燃費良好だったと思料される。
なお、このカタログの燃費値は「10モード」と「60km/定地走行」によるものなので、現代のクルマの「10・15モード」とは単純には比較出来ないことを、申し添えておきましょう。
「ZEROスクラブサスペンション」「ラック&ピニオン式ステアリング」等、走りにこだわった記述が満載なのが、「技術の日産」らしくて、実に素晴らしい。4速オートマチックも、この当時は斬新だったのだ。
足回りは、SSS系にはいわゆる「4輪独立懸架」が奢られている。
’80年代前半の流行アイテムである「デジタルメーター」や「ドライブコンピューター」が、来たるべき新しい時代を予感させてくれた。
カラードでない「大型ウレタンバンパー」も、なにか時代を感じさせる。
だが、パンパーというものの本来的な役割を考えると、バンパーやサイドガードモールは、このように塗装をしない方が、むしろ正しい姿であるように思える。いつからなんだろう、「カラードバンパー」がハバを利かせるようになったのは・・・
熱線リヤウインドウには、「オートカットタイマー付」をいち早く用意していた。これは実用上大変便利な装備であり、日産の良心を感じるアイテムだ。
現代ではパワステ無しのクルマを探すほうが難しいが、この当時パワステは「豪華装備仕様グレード」にしか装着されていなかった。「パワーウインドウ」や「集中ドアロック」も然りである。
イラストによる懇切丁寧な各部の解説に、生真面目な日産らしさを感じる。
いろいろと可動部分の多いシートも、当時の流行であった。
また、「マルチ・ボイス・ワーニング」が面白い。なんと「レコード式による女性の声」が、ライト消し忘れやパーキングブレーキの戻し忘れ等を「やさしく警告してくれる」とのこと!ああ、私も、一度警告されてみたい・・・
オーディオも当時としては最先端。なんてったって「ドルビー付メタル対応式」なのだから!今どきの若者には、なんのこっちゃかさっぱり分からないことであろう。
しかも、なんと録音用のマイク付!いったい何を録音するのかは、謎に包まれているが・・・
このクルマの美点として、全方位にわたって視界良好だったことが挙げられるだろう。
これは実は非常に大事なことで、まず事故を起こさないという「アクティヴ・セイフティー」に大きく貢献する。
だがしかし現代のクルマには、この「良好な視界」という点において、あまり考慮されていないものも時たま見受けられる。
いやまあ、それにしてものワイドバリエーションである。この辺に、現代ほどコスト管理が厳しくなかった、おおらかな時代背景が感じられる。
さてここからは、個別のグレードについて、検証していきたいと思う。
まずは4ドアハードトップ。「1800 SSS-E」と「TURBO SSS」は、装備的に言えば中間グレードである。
紺とグレーのツートーンのボディカラーは、率直に言って、あまり成功しているとは思えないが・・・
「2000 SSS-X」「TURBO SSS-X」は豪華装備グレード。
「パワステ」「パワーウインドウ」「集中ドアロック」といった、当時の「三種の神器」が追加される。
「2000 SSS-X・Gtype」「TURBO SSS-X・Gtype」には、さらに「デジタルメーター」「ドライブコンピュータ」が追加され、例の「録音機能付き8スピーカーシステム高級カーコンポ」も搭載!
・・・正直言って、この「Gtype専用装備」には、あまりココロ魅かれないですな。
4ドアハードトップSSS-Xのスリーサイズは、全長4510mm×全幅1655mm×全高1370mmである。
続いて、4ドアセダン。標準的なグレードの「1600 GL」。
格子型メッキのフロントグリルが、ややオジンくさい。
廉価版の「1600 CT」及び「1600 DX」。
タクシー等でもおなじみのグレードである。アカツキ交通も、昔はこのクルマだったハズ・・・
「1800 GF」「DIESEL2000 GF」「2000 GF」はラグジュアリー仕様。
当時の日産がセドリック等にも採用していた「ルーズクッション風シート」が、なんとも切なさを感じさせる。
そして「1800 SSS-E」と「TURBO SSS」。
私が買うとすれば、シンプルでスポーティな味わいのある「1800 SSS-E」にするだろう。910ブルーバードのセダンには、青よりも赤が良く似合うのだ。
セダン2000GFのスリーサイズは、全長4395mm×全幅1655mm×全高1385mm。全高は4ドアハードトップよりも15mm高い。
ちなみに、現行ブルーバードシルフィのそれは、4610mm×1695mm×全高1510mmである。昔のクルマは小さかった・・・
そしてスポーティーグレードの2ドアハードトップ「TURBO SSS-S」。
本革巻のステアリングが装着され、ミシュランの185/70R14のシューズを履く。
全長4510mm×全幅1655mm×全高1370mmのスリーサイズは、4ドアハードトップのそれと同一である。
そして忘れちゃいけないのが、「AD WAGON」。
「1800 GS」の装備内容は、おおよそ「1800 SSS」に準じており、インパネには赤いストライプが入る。
かつての日産は、結構ワゴンボディに力を入れていた。ボディ横のウッドパネルは、「サニー・カリフォルニア」以来の伝統である。
全長4445mm×全幅1655mm×全高1410mm。セダンよりもリヤのオーバーハングを50mm延ばしているのが、デザイン上のポイントだ。
かつてのブルーバードのワイドバリエーションは、ダテではなかったと思う。SSSシリーズで若者のハートを掴み、GLやGFでオジンを囲い込む。素晴らしいセダンだった、最後のFRブルーバードである910。
私があと10年早く生まれていたら、910を選んでいた可能性が高い。多分、レオーネには、行かなかったと思う。一度SSSシリーズを、運転してみたかった・・・