『わが母の記 (講談社文庫)』
井上靖、2012、『わが母の記 (講談社文庫)』、講談社
先日出かけた伊豆の宿に置かれていた本書を頂戴し、夕べ読み終えた。著者は、湯ケ島に生家をもつ母をもち、母の最晩年の姿について、観察と小説家的想像力を持って描いたのが本書である。私はこの半年あまりの間に続いて両親を亡くした。この湯ケ島には、たまたま知ったこの5年程の間、結構頻繁に通っているが、残念ながら老親を連れてくることができなかった。昨年10月末に父を、今年2月に母をいずれも90歳を越えた年で見取ったので、おそらく、この5ー6年であっても、連れて来ることは無理なことではあったかとおもう。
両親の最晩年は、本書に描かれる著者の母の様な耄碌した様子とは異なり、多少は記憶がとんだり身体の動きが十分でなかったりしたものの、周りのものが、年齢に比べて意外に思うほど早く逝ってしまった。しかし、高齢が想像以上に生死の境界線上にあることも、遅まきながら知ることになった。父は、1ヶ月の入院生活を経て逝ったのだが、誤嚥の恐れがあるというので、固形物を口にすることを禁じられ、口を湿らせるだけの状態になりそのまま衰弱していった。母は、症状と病因が判明して入院したときにはもう手遅れで、わずか半日の入院で逝ってしまった。二人とも年齢はそれぞれ、満年齢で94歳と92歳で、世間からしても十分の年齢ではあったが、周りのものは、いずれも、心に残す死に様ではあった。
自分自身は、いまから、30年ほど前、はじめて、両親の元から遠く離れ、結構、生存をかけるような場所で8ヶ月を過ごすという体験を持ったのだが、その折り、いざとなっては、両親の死に目にあうことはかなわず、また、自分の死には両親がかかわることはできないことを、何となく感じて、そのことを口にすることはなかったが、両親との距離の置き方を実感したような記憶がある。それまでは、両親の庇護のもとぬくぬくと生きていたし、その後も、両親の直接間接の支えによって生きていたことは確かだが、今になって思うことは、終わりのあることは想像もできず、たわいもないことも含め、両親のことをよく知ることがなかったことを今更ながらに悔やんでいる。しかし、死は、容赦なく突然おとずれ、さまざまな思いを残す。しかし、残念ながら、その思いは果たされることはない。そういうものだ、としか言えない。そして、その中に漂った思いを、どこかに落ち着かせる、それしかないのだろう。
先日出かけた伊豆の宿に置かれていた本書を頂戴し、夕べ読み終えた。著者は、湯ケ島に生家をもつ母をもち、母の最晩年の姿について、観察と小説家的想像力を持って描いたのが本書である。私はこの半年あまりの間に続いて両親を亡くした。この湯ケ島には、たまたま知ったこの5年程の間、結構頻繁に通っているが、残念ながら老親を連れてくることができなかった。昨年10月末に父を、今年2月に母をいずれも90歳を越えた年で見取ったので、おそらく、この5ー6年であっても、連れて来ることは無理なことではあったかとおもう。
両親の最晩年は、本書に描かれる著者の母の様な耄碌した様子とは異なり、多少は記憶がとんだり身体の動きが十分でなかったりしたものの、周りのものが、年齢に比べて意外に思うほど早く逝ってしまった。しかし、高齢が想像以上に生死の境界線上にあることも、遅まきながら知ることになった。父は、1ヶ月の入院生活を経て逝ったのだが、誤嚥の恐れがあるというので、固形物を口にすることを禁じられ、口を湿らせるだけの状態になりそのまま衰弱していった。母は、症状と病因が判明して入院したときにはもう手遅れで、わずか半日の入院で逝ってしまった。二人とも年齢はそれぞれ、満年齢で94歳と92歳で、世間からしても十分の年齢ではあったが、周りのものは、いずれも、心に残す死に様ではあった。
自分自身は、いまから、30年ほど前、はじめて、両親の元から遠く離れ、結構、生存をかけるような場所で8ヶ月を過ごすという体験を持ったのだが、その折り、いざとなっては、両親の死に目にあうことはかなわず、また、自分の死には両親がかかわることはできないことを、何となく感じて、そのことを口にすることはなかったが、両親との距離の置き方を実感したような記憶がある。それまでは、両親の庇護のもとぬくぬくと生きていたし、その後も、両親の直接間接の支えによって生きていたことは確かだが、今になって思うことは、終わりのあることは想像もできず、たわいもないことも含め、両親のことをよく知ることがなかったことを今更ながらに悔やんでいる。しかし、死は、容赦なく突然おとずれ、さまざまな思いを残す。しかし、残念ながら、その思いは果たされることはない。そういうものだ、としか言えない。そして、その中に漂った思いを、どこかに落ち着かせる、それしかないのだろう。
わが母の記 (講談社文庫) | |
井上靖 | |
講談社 |