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桜と絵本と豆乳と

回転独楽のような見え方

2015年07月19日 | 読書
 【2015読了】65冊目 ★★
 『ジャイロスコープ』(伊坂幸太郎  新潮文庫)

 後書きがわりのインタビューに答えて、著者はこう語る。「長編は自分が一番やりたいこと、(略)基本的には自分のために書くだけで。短編はそれに比べると、依頼されたから頑張って書く(笑)、という感じで。」人気小説家の多くがこうだとは言わないが、ある程度予想できる答え。この文庫は底本がまちまちなので、様々なパターンの短編が盛り込まれていた。


 著者は続けて、短編には「面白い仕掛け」「驚きのある展開」を用意しようと思っていると語る。その仕掛けや展開が、肌に合うかどうかは読者次第だ。今回の7編のうち、二つばかり自分の頭でなかなか像が結べない作品があって、苦労した。もちろん今まで読んだ伊坂作品と似通っている部分はあるのだが、びっしりと密度濃く反映されるとつらいこともある。


 とてもよく読める(わかりやすい?)作品が二つあり、一つは「if」。「もし、あの時、ああしていればどうなったのか、と想像する」で始まる主人公山本の、二通りのストーリーである。テレビにも取り上げられそうな展開だ。しかし単なるパラレルでないところが伊坂の伊坂たる所以。小さな決断の連続によって成り立っているのが人生と今さらながらに思う。


 お仕事小説といってもいい「彗星さんたち」。これは新幹線清掃の仕事を取り上げているのだが、実に上手いつくりになっていた。主人公以外のキャラクターが見事に立っているし、よく使う著名人の言葉の引用なども実に巧みで伊坂らしい。女性が主人公なのは苦手と著者はいうが、あまり心理の奥底までに入らずあっさり書いているので、つまり男性読者向き?