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その果ての絶景

2017年02月08日 | 読書
 「光降る丘」は、観光名地のようなものではない。地理的な条件によって絶景と称される場所は各地にある。しかし、ここに著されている「光」は原生林を切り開いた末の「満天の星」であり、それに呼応する「家々の窓から漏れる電灯の灯り」である。その実現を、昭和40年代まで待たねばならなかった価値を想う。

2017読了12
『光降る丘』(熊谷達也  角川文庫)




 2008年6月の岩手・宮城内陸地震で大きな被害を受けた宮城県栗原市の開拓村が主たる舞台となる小説。「揺れる大地」という地震当日の様子から書き出されるが、時間を遡って主人公のシベリアからの引揚体験、帰国、入植という筋と、もう一人の主人公であるその孫の地震被害への向かい方を、交互に章立てしていく。


 戦時中の満州移民、シベリア抑留は現在でもよく取り上げられる。体験した方々のその後は様々だろうが、おそらく国内での開拓に向かった数も少なくはないはずだ。TVドラマとして観たこともある。この小説は実際の開拓村資料をもとにしているので、その具体についてかなり丹念に書き込まれていて、姿が見える。


 改めて開拓村に根付いた方々の精神力を想う。もちろん、その過程で力尽きたり、不慮の事故に遭ったりした者も多い。しかしその度に個々が持ち合わせていた強靭さは、生き残った者に引き継がれたのではないか。大自然の猛威、困難にしたたかに立ち向かう姿は、教育や感化といったような言葉で言い尽くせない。


 記憶にあるあの地震は土曜日。自宅居間で寛いでいた時に感じた揺れは大きく、すぐ勤務校へ出向いた。建てて10年ほどの校舎は内外ともびくともしなかった。校長室内でこけしが2本だけ倒れていた。しかし、学区内では崩落があり県道を閉ざし、その後数年間の不通が強いられた。脅威は身近だったことに思いを馳せた。