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「どこにもない場所」には行けない

2019年07月01日 | 読書
 ユートピアという語は様々な施設や場所、団体などの名称に使われている。地元のFM局もその名を冠している。「理想郷」という意味が浸透しているからだろう。もとはトマス・モアというイギリスの作家の小説の題名だという。そして、そもそもはギリシア語で「どこにもない場所」を指す意味とされている。


 もちろん「良い方向」のどこにもないであろうが、「ユートピアなんてどこにもないさ」という昔ありがちだった台詞は、同語反復のようで、さもありなんと笑えてくる。よく自己啓発本では、幸福追求のポイントが示される。その条件に「時間」や「人」は挙がっても、「場所」の影が薄いのはやはり優先度が低いのか。


 そうは言っても正直、生まれた国が紛争が絶えなかったり、独裁者が仕切っていたりしない現実には感謝する。俯瞰的にみれば、それが幸せの基本条件ラインを決定しているように思える。しかし、どんな心構えより場所の方が…とはやはり言い訳に過ぎない。ということで?今年上半期最後の読了は、湊かなえで。


2019読了67
 『ユートピア』(湊かなえ 集英社)



 三人の女性を主人公としたミステリ。いかにも湊作品という味わいだが、既視感もあるのはパターン化も感じているからか。本の帯には「善意は、悪意より恐ろしい。」様々な作品にも込められていたテーマだ。ユートピアが理想郷と称されるのは、結局、人間がいる郷である限り実現しないと誰しも知っているからだ。


 「地に足着けた大半の人たちは、ユートピアなどどこにも存在しないことを知っている。ユートピアを求める人は、自分の不運を土地のせいにして、ここではないどこかを探しているだけだ。永遠にさまよい続けていればいい。」…さまよっていることに気づければ、人は別の観点に目をつける。そこがスタートとなる。