すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

生き物としてこの世を見る

2019年07月25日 | 読書
 著者には有名な『ゾウの時間 ネズミの時間』という新書があり読んだ記憶がある。感想を残しているはずとブログ内検索をかけたら、なんと2011年3月11日の記事だった。たぶん、前日の人間ドックの折に読了したことを、その日の朝書いたのだと思う。そうだったか。この新書の脱稿もその時期だったようだ。


2019読了74
『生物学的文明論』(本川達雄 新潮新書)



 「数学的・物理学的発想が、この便利で豊かな社会をつくり、同時に環境問題などの大問題を生み出している」というスタンスを持つ著者が「生物学的発想をすれば、解決の糸口がつかめるのではないか」と、自らの研究を基に現代文明や人間の生き方に迫っている。文句なしの良書。凝り固まった頭が揺さぶられる。


 サンゴ礁を皮切りに生物多様性と生態系、生物と水との関係が語られる。サンゴが動物であることさえ認識していない自分には、少し難解な部分もあった。ただ改めて納得したのは、生態系は単なる算数とは違うという事実。科学は「世界を単純化して眺める」が、生き物はそうではない。そこに困難が生じているのだ。


 深く頷けるのは「生物は円柱形」であるという論。そして「生きているとは水っぽい」こと。つまり円柱形に水が詰まっているイメージ、人間とて当然当てはまるだろう。そして人工物は四角いし、硬い。「人工物と生物の設計思想の違い」がこれだけ明らかでありながら、「環境にやさしい」という美辞は繰り返される。


 形のことを考えて思い出したことが二つあった。一つは、今の家を築てるときエントランスを円形状にしたいと希望を伝え設計したことだ。建築家も賛成してくれて今の姿になったが、この様相を見たある方から「何か宗教でも」と言われたこと。もちろん大昔からある形状だが、一般的とはいえないのだと悟った。
(つづく)