すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

お金に換えてはいけない

2019年10月02日 | 読書
 何度か書いているが、経済とは「経世済民・経国済民」を略したことばである。「物質・財貨の生産・流通・消費」を指しているわけだが、ふだんは金の遣り繰りや金儲けを端的に言っている場合が多い。人間生活にとってこの大事な概念は言葉そのものが汚れているのではなく、使う人間の考え方によって縁どられる。


2019読了90
『人間の経済』(宇沢弘文 新潮新書)



 著者のことは数年前テレビで特集されたときに初めて知った。数学や経済学に関わる研究者の持つイメージとはかけ離れた印象を持った。放送の内容からも感じたのだが、日本いや世界でも稀にみる学者魂の持ち主と言えるだろう。ストレートに放つその主張は、人間にとって一番大切なことは何かを端的に示している。

「それは、大切なものは決してお金に換えてはいけない、ということです。人間の生涯において大きな悲劇は、大切なものを権力に奪い取られてしまう、あるいは追いつめられてお金に換えなければならなくなることです。」


 誰しも頭でわかっていて、口にするこうした考えを、どこまで本気で実行しようとしているか…それが問われる。著者の提起した「社会的共通資本」とは自然環境だけでなく、教育、医療といった制度を伴うことまで広範囲に渡る。様々な問題の根が「お金」にあることを、私たちは容易に理解できているではないか。


 地球環境に対する若者のアプローチへの賛同も含め、見直してみることはたくさんある。消費税アップの細々した計算より、今この事をお金で済ますべきかどうかの検討がより大事ではないか。お金に換えられない気持ち、その時間を大切にするとは、消費社会に振り回されず経済を動かす主体性を持つということだ。