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楽園とは場所を指さない。

2019年10月24日 | 雑記帳
 映画『楽園』を観た。宣伝の「吉田修一最高傑作『犯罪小説集』」というキャッチフレーズはどうかと思うけれど、4月に読了したときから封切りを楽しみに待っていた。映画館で観ることが本当にまれになり、今思い起こしたら『この世界の片隅に』以来、つまり一年半ぶりぐらいになる。集中して観られてよかった。


 ネタバレは本意ではないので、ごく個人的な興味だけを書くと、配役はぴったりだった。有名俳優もそれほど名の知られていない女優たちも、いいハマり方をしていた。エンドロールで驚かされたのは、主題歌を出演していない上白石萌音が歌っていたこと。関係ないがNHK「怪談牡丹灯籠」が面白かったので印象深い。


 小説を読んだ時、映画に使ってほしい台詞を勝手に書いていた。ところが、それらは映画化されない作品の方だった。ガクッ(笑)。印象的なのはごく平凡な言葉で「どこへ行っても同じ」。似た台詞を違う人物が繰り返すのは意図的だと感じた。つまり「楽園」というテーマに対応する考えだ。楽園とは場所を指さない。


 この映画のモデルの一つは、おそらく2005年栃木県小1女児殺害事件だ。裁判は最高裁へ上告中という。いずれ被害者家族の怒りや嘆きの行方は、いつの場合もやるせない。その「気」の拡散を周囲は受けとめる必要があるし、それはフィクション化された作品を観る私たちにも向けられているような気もした。


 もう一つのエピソードも、数年前の山口県の連続放火事件がモデルとされている。これは限界集落での出来事で、ある意味典型的というか、似たような筋の話はごろごろ転がっているのだ。人間性が捻じ曲げられていく狂気とはいったいどこに、誰にあるのか、考えざるを得ない。佐藤浩市はここでも魅せてくれる。