和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

言葉尻齧り虫。

2007-10-18 | Weblog
渡部昇一著「時流を読む眼力」(到知出版社)を読みました。
そのあとがきの印象が鮮やかです。
ということで、あとがきの紹介。こうはじまります。

「【庶士横議(しょしおうぎ)】という言葉があった。政治上の責任のある地位にないものが、政治について勝手なことを議論するという意味である。・・私は現在完全な庶士だ。何の地位もなく、位階勲等もゼロである。私の言うことは典型的な庶士横議と言ってよかろう。・・・庶士の私には政界や経済界との『しがらみ』がない。その点では自分の利害に関係なく、国益という座標軸から自由に論ずることができるという【勝手】が許されていると思う。」
こうして、渡部昇一氏の横議を、十年近く掲載している雑誌として、月刊『到知』を紹介しております。そこでの最近の連載が一冊となったわけです。何よりもその自由な語り口が、読むものにも気楽な楽しみとして、自然と伝わってくるのでした。時々の時事問題の要所をクリップでとめて置くように、語られる全体が、大きく時事問題への解答を含んでいて、ややもすると雑事に忘れてしまいやすい、その時々の重要な指摘が連なっております。問題を反芻して、ていねいに咀嚼するのを助けてもらているようです。

こんなとりとめないことを語っていてもしょうがないですね。
ひとつ引用してみます。
題して「『産む機械』発言騒ぎは天皇機関説を思い出させる」(p150~)。
はじまりは
「女性は産む機械――柳澤伯夫厚生労働大臣の発言が大問題になった。女性を『産む機械』とは、やはり失言と言わざるを得ない。」
ちょいと間を端折っていきます。
「私は民主党の小宮山洋子衆議院議員が質問に立ち、柳澤厚労相を追及する様子をテレビ中継で観た。言葉尻をとらえてああ言えばこう言う式の揚げ足取りが延々と続き、実に不愉快であった。不愉快だっただけではない。暗い予感さえ覚えた。というのは天皇機関説問題を思い浮べたからである。・・美濃部達吉博士は弁明の演説を行った。それは学問的にも実にしっかりしたもので、貴族院の議場からは期せずして拍手が起こったほどだった。しかし、『天皇を機関とはけしからん』という攻撃は収まらない。・・思えば、これは日本が敗戦の破滅に向かって突っ込んでいく一つの分水嶺だったように思う。・・・」

ところで、最近「おしりかじり虫」という楽しい歌がはやっているのだそうですね。
それと連想が重なるような渡部氏の語りが次に聞けるのでした。

「言葉尻をとらえる。揚げ足を取る。これは些事のように思われがちである。だが、決して些事ではない。それは言論を萎縮させ、重大な結果につながっていくのだ。差別問題が起こる。その多くは言葉尻をとらえた揚げ足取りがきっかけである、と言っていいほどである。私も差別を糾弾する団体に直面した経験があるが、その団体がやったことと言えば、終始言葉尻をとらえた揚げ足取りばかりだったと断言できる。何かを言えば、その言葉尻をとらえて、理窟にもならない難癖をつけてくる。揚げ足を取って、こちらの意図とはまったく異なる決めつけをする。これに対抗するには、沈黙を守る以外にないではないか。私の場合は、屈服しなかったために、相手は呆れ音を上げたのだろう、目的を遂げることなしに私の前から消えてしまった。しかし、屈服はしなかったが、私の主張を十分に展開できたわけではない。際限のない言葉尻をとらえた揚げ足取りに、まともな言論を展開できるわけがない。」

そして、こう渡部氏は書いております。

「このように、言葉尻をとらえて難癖をつけ、揚げ足を取るのは、言論の自由を封殺してしまうことになるのだ。それが積み重なれば、重大かつ深刻な事態につながっていくことを知らなければならない。」(p155)

以下続く具体的に続くのですが、今回はこのへんで終わります。
この本、時事問題をとりあげながら、現代を知る大切な要素を指摘してゆくのです。それは言葉尻をとらえ難癖をつけ、揚げ足を取るというようなつまらなさではなくて、楽しい語らいのなかで語られてゆくのでした。

あるいは、と私は思うのです。
日本には「しりとり」という遊びがありますね。
言葉のしりとりをしてゆく、それ以外に持ち合わせがないような不安定な社会ですが、
決めつけの「しりとり」をしているというのは、空恐ろしくもなります。
でも、もっと明るくなる日本語の「しりとり」というのがあるはずで、
きっと、「おしりかじり虫」という歌に、皆さんは無意識に、その楽しみを期待しておられるのじゃないか。これが、この歌のヒットの背景にあるのじゃないか。などと思ったりしてみるのでした。「難癖をつけ、揚げ足を取る」だけの「しりとり」にはもう辟易。歌「おしりかじり虫」で柔軟体操して、おもむろに、あたらしい「しりとり」を国会中継に期待したいわけです。「その団体」の中にも、都会の真ん中で「おしりかじり虫」を楽しむ方おりますか?期待してます。


コメント (2)
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