今日の読売歌壇(7月21日)では
小池光選の10首が楽しかったので引用。
よろよろの老いたる犬にすれ違い
ふりむけば犬もこちら見ており
広島県 荒巻武子
永年を新聞配達して来しが
墓場の道は怖かりしかな
牛久市 井上満津子
「オレオレ」のあと「生きてるか?」と
聞く奴は俺の息子に間違いはなし
交野市 遠藤 昭
おとなしく主を待てる馬のごと
駐輪場に並ぶ自転車
広島市 熊谷 純
籠枕を抜け落ちてゆく夢のあり
その大方はちちははなれど
国分寺市 越前春生
コトコトと独り夕餉の野菜刻めば
なんと寂しき音の響きよ
上田市 窪田広延
三回もわが血吸わんと顔に来し蚊を
捕たるははや夜明けなり
高崎市 門倉まさる
愛らしと言いて呉れしは父母と夫
のみなりき老いて思えば
豊前市 岡本マサミ
健康にだれより留意の君だった
運命論をおもわずおれぬ
海老名市 玉川伴雄
「ばあばホラ」孫が見つけた三日月は
諏訪湖の上で星と語らう
瀬戸市 村瀬登美子
こんな和歌を読んでいると、
平川祐弘の個人完訳
小泉八雲「骨董・怪談」(河出書房新社)
をひらきたくなりました。
そこにある、平川氏ご本人の解説から引用。
「考えて見ると現世本位の写実主義だけでは
文学はつまらない。シェイクスピアでも
ハムレットの父が亡霊として現われると
舞台が緊張する。・・・・・
あの世とこの世をつなぐ橋掛かりを通って
亡霊が登場するのが夢幻能である。
ダンテ『神曲』の地獄篇でも亡霊が
名乗り出て恨みつらみを語る。
煉獄篇でも前世の所業を後悔しつつ語る。
そんな劇的構造はいずれも同じである。
ソーシャリスト・リアリズムは
人間の尊重を説いたが、
亡霊を無視することで人間性を蔑視した。
これは非常な間違いだった。
能は貴族が舞うから高級で、
怪談は庶民が語る娯楽だから下級だ
などと分けないでもらいたい。
能も怪談も亡霊がある時点で
突然正体を現す。・・・・・
東アジアは人間味のある怪談に富んでいる。
それを耳に留めて次々と再話したハーンは
日本人の霊の世界を発見したという点で、
やはり初志を貫徹して『文学上のコロンブス』
となった人というべきではあるまいか。」
(p358~359)
うん。この夏は
この平川祐弘訳の「小泉八雲『骨董・怪談』」を
読むんだ(笑)。
小池光選の10首が楽しかったので引用。
よろよろの老いたる犬にすれ違い
ふりむけば犬もこちら見ており
広島県 荒巻武子
永年を新聞配達して来しが
墓場の道は怖かりしかな
牛久市 井上満津子
「オレオレ」のあと「生きてるか?」と
聞く奴は俺の息子に間違いはなし
交野市 遠藤 昭
おとなしく主を待てる馬のごと
駐輪場に並ぶ自転車
広島市 熊谷 純
籠枕を抜け落ちてゆく夢のあり
その大方はちちははなれど
国分寺市 越前春生
コトコトと独り夕餉の野菜刻めば
なんと寂しき音の響きよ
上田市 窪田広延
三回もわが血吸わんと顔に来し蚊を
捕たるははや夜明けなり
高崎市 門倉まさる
愛らしと言いて呉れしは父母と夫
のみなりき老いて思えば
豊前市 岡本マサミ
健康にだれより留意の君だった
運命論をおもわずおれぬ
海老名市 玉川伴雄
「ばあばホラ」孫が見つけた三日月は
諏訪湖の上で星と語らう
瀬戸市 村瀬登美子
こんな和歌を読んでいると、
平川祐弘の個人完訳
小泉八雲「骨董・怪談」(河出書房新社)
をひらきたくなりました。
そこにある、平川氏ご本人の解説から引用。
「考えて見ると現世本位の写実主義だけでは
文学はつまらない。シェイクスピアでも
ハムレットの父が亡霊として現われると
舞台が緊張する。・・・・・
あの世とこの世をつなぐ橋掛かりを通って
亡霊が登場するのが夢幻能である。
ダンテ『神曲』の地獄篇でも亡霊が
名乗り出て恨みつらみを語る。
煉獄篇でも前世の所業を後悔しつつ語る。
そんな劇的構造はいずれも同じである。
ソーシャリスト・リアリズムは
人間の尊重を説いたが、
亡霊を無視することで人間性を蔑視した。
これは非常な間違いだった。
能は貴族が舞うから高級で、
怪談は庶民が語る娯楽だから下級だ
などと分けないでもらいたい。
能も怪談も亡霊がある時点で
突然正体を現す。・・・・・
東アジアは人間味のある怪談に富んでいる。
それを耳に留めて次々と再話したハーンは
日本人の霊の世界を発見したという点で、
やはり初志を貫徹して『文学上のコロンブス』
となった人というべきではあるまいか。」
(p358~359)
うん。この夏は
この平川祐弘訳の「小泉八雲『骨董・怪談』」を
読むんだ(笑)。