和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

途中で投げ出した口だった。

2018-08-29 | 前書・後書。
百目鬼恭三郎といえば、「読書人読むべし」という題が
宣伝されていたことがあり、御多分に漏れず買ったのでした。
けれど、読めなかった記憶があります。

まあ、そんなわけでこの人の本は、手がでなかったのですが、
古本でまとめて購入した中に「奇談の時代」があって、興味深く。
それが読み終わらないうちに、「乱読すれば良書に当たる」を
古本で安く購入。こちらも面白そう。

はじまりは
「この本の宣伝のための架空講演」です。

「いつだったか、さる所で講演をした折、聴衆の一人から、
お前が出した『読書人読むべし』という読書案内には、
専門家が使うような本ばかりあげてあって、
我々のような一般読者向きの本はほとんど紹介されていない、
お前は一般読者をバカにしているのか、と叱責されたことが
あります。・・・」

 架空講演はこう始まっておりました(笑)。

「・・私には読み通せなかったか、
読んだもののよく理解できなかったか、のいずれかで、
他人様におすすめできるだけの自信がなかったから、
紹介しなかっただけのことなのですね。
『神曲』だの『ドン・キホーテ』などは、
読んでもさっぱり面白くなくて途中で投げ出した口
だったとおぼえています。・・」


はい。これだけでも買って正解でした(笑)。

ひとつだけ引用します。
夏目漱石の「坊つちゃん」を取り上げた箇所。
はじまりはというと、

「多くの読者が、夏目漱石の作品に人生哲学を求める
読みかたをしている、ということに気づいたのは
旧制高校の一年生のときである。・・・

当時の私にとっての漱石は、『坊つちゃん』の作者、
『草枕』や『虞美人草』の作者であって、
おなじ漱石の作品でも、理窟の勝った『行人』や
『こころ』はどうしても好きになれないでいたのである。」


はい、こんな風にはじまっていて、5頁。
その最後のページを引用しておきます。

「初期の漱石は、天与の想像力をのびのびと発揮して、
『坊っちゃん』や『草枕』を書いた。
が、漱石はやがて、想像力を駆使することをやめてしまい、
人間性を追求する小説を書きはじめた。その最初が
『三四郎』『それから』『門』の三部作であり、
以後、『彼岸過迄』『行人』『こころ』と、
その傾向は深化してゆく。そして、それに反比例して、
漱石の天与の才能は影をひそめてゆき、
吉田健一氏がいみじくもいったように、
真の意味の小説ではなく、
小説の雛形になってしまっていたのである。
『坊っちゃん』が、漱石の最高傑作であるという評価が、
少数意見でなくなる日の来ることを、私は願っている。」
(p40~44)


はい。最初に百目鬼恭三郎著「読書人読むべし」(新潮社)を
読んだのが間違いのもとでした。
コメント
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