私など、本を数行・数頁読んだだけで、
何だか、満腹で先へ読み進めなくなる。
などと、本を食べ物にたとえることがあります。
じゃあ、本を書く人にとってはどうなのだろう。
新潮文庫「注文の多い料理店」の目次をひらく。
最初は、イーハトヴ童話『注文の多い料理店』(全)とあります。
序
どんぐりと山猫
狼森と笊(ざる)森、盗森
注文の多い料理店
烏の北斗七星
水仙月の四日
山男の四月
かしわばやしの夜
月夜のでんしんばしら
鹿踊りのはじまり
目次は、そのあとにも続いておりますが、
とりあえず、私が読みたかったのはここまで。
序をひらくと、こうはじまっておりました。
「わたしたちは、・・・
きれいにすきとおった風をたべ、
桃いろのうつくしい朝の光をのむことができます。
・・・・
これらのわたくしのおはなしは、
みんな林や野はらや鉄道線路やらで、
虹や月あかりからもらってきたのです。 」
ちょっと思うのですが、林や野はらはわかるのですが、ここで
どうして鉄道線路なのだろう?鉄道ファンの『鉄ちゃん』だから?
まあ、それはそうとして、序からの引用をつづけます。
「 ですから、これらのなかには、
あなたのためになるところもあるでしょうし、
ただそれっきりのところもあるでしょうが、
わたくしには、そのみわけがよくつきません。
なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、
そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。 」
はい。つぎは、この序文の最後になります。
「 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、
おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、
どんなにねがうかわかりません。
大正12年12月20日 宮沢賢治 」
こんな序文があったなんてね。さて、この序文をどう読めばよいのか?
この新潮文庫の最後の方には、井上ひさし氏の6ページほどの文があり、
そのはじまりは、こうありました。
「 宮澤賢治の『正しい読み方』、あるいは『正義の鑑賞法』など
あろうはずがない。読者はそれぞれ自分の背丈に合わせて、
この稀有の詩人にして世にも珍しい物語作家の創ってくれた
世界で、たのしく遊べば、それでいい。
解説は、だから、これでおしまい。これから書くことなどは、
蛇足も蛇足、蛇の足の先の、爪の垢同然の、余計な付足しである。 」
こうして
「 つめくさはマメ科の多年草でずいぶん根が長い。・・・ 」
話しをはじめ、その長い根にひっかかるように宮澤賢治が浮かびあがります。
うん。新潮文庫の序と、解説とを引用しただけで、満腹感。