和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

風をたべ。朝の光をのむ。

2023-07-08 | 前書・後書。
私など、本を数行・数頁読んだだけで、
何だか、満腹で先へ読み進めなくなる。

などと、本を食べ物にたとえることがあります。
じゃあ、本を書く人にとってはどうなのだろう。

新潮文庫「注文の多い料理店」の目次をひらく。
最初は、イーハトヴ童話『注文の多い料理店』(全)とあります。

  序
 どんぐりと山猫
 狼森と笊(ざる)森、盗森
 注文の多い料理店
 烏の北斗七星
 水仙月の四日
 山男の四月
 かしわばやしの夜
 月夜のでんしんばしら
 鹿踊りのはじまり

目次は、そのあとにも続いておりますが、
とりあえず、私が読みたかったのはここまで。

序をひらくと、こうはじまっておりました。

「わたしたちは、・・・
 きれいにすきとおった風をたべ、
 桃いろのうつくしい朝の光をのむことができます。

 ・・・・
 これらのわたくしのおはなしは、
 みんな林や野はらや鉄道線路やらで、
 虹や月あかりからもらってきたのです。  」


ちょっと思うのですが、林や野はらはわかるのですが、ここで
どうして鉄道線路なのだろう?鉄道ファンの『鉄ちゃん』だから?
まあ、それはそうとして、序からの引用をつづけます。

「 ですから、これらのなかには、
  あなたのためになるところもあるでしょうし、
  ただそれっきりのところもあるでしょうが、

  わたくしには、そのみわけがよくつきません。

  なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、
  そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。 」

はい。つぎは、この序文の最後になります。

「 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、
  おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、
  どんなにねがうかわかりません。

       大正12年12月20日    宮沢賢治         」


こんな序文があったなんてね。さて、この序文をどう読めばよいのか?
この新潮文庫の最後の方には、井上ひさし氏の6ページほどの文があり、
そのはじまりは、こうありました。

「 宮澤賢治の『正しい読み方』、あるいは『正義の鑑賞法』など
  あろうはずがない。読者はそれぞれ自分の背丈に合わせて、

  この稀有の詩人にして世にも珍しい物語作家の創ってくれた
  世界で、たのしく遊べば、それでいい。

  解説は、だから、これでおしまい。これから書くことなどは、
  蛇足も蛇足、蛇の足の先の、爪の垢同然の、余計な付足しである。 」

こうして
「 つめくさはマメ科の多年草でずいぶん根が長い。・・・ 」
話しをはじめ、その長い根にひっかかるように宮澤賢治が浮かびあがります。


うん。新潮文庫の序と、解説とを引用しただけで、満腹感。





コメント
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