和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

本所被服廠(ほんじょひふくしょう)跡

2024-06-18 | 重ね読み
関東大震災の、本所被服廠跡について。

小沢信男著「俳句世がたり」(岩波新書・2016年)の一部が
印象深くあらためて、そこから引用。

「 9月1日が震災忌。・・・・
  火災が多発して東京の下町は一面の焼け野原。
  死者10万余人のうち約4万人ほどが本所被服廠跡で焼死した。

  跡地の一部を公園にして慰霊の震災記念堂を建立した。

  その22年後に、東京大空襲によって、より広大な焼け野原。
  ただし震災記念堂の一帯は、同愛病院から両国駅までぶじに残った。

  そこで無量の焼死の遺骨をここに納めて、
  東京都慰霊堂と改称した。以来、3月10日と9月1日の、
  春秋に大祭が催されております。

  春の大祭は賑わう。空襲の生きのこりたちが孫子をつれてくるからね。
  くらべて秋は、ややさびしい。もはや88年も昔のことだもの。
  しかしこちらこそが本家ではないか。  」

このあとも、引用しておかなければ。

「 そうです。本家の面目をいまにたもつ集いが、
  本堂のほかに二カ所あります。
  一つは慈光院。横綱町公園の南隣りのお寺です。

  震災時に、築地本願寺も全焼しながら、
  酸鼻の被服廠跡へ僧侶たちは駆けつけて、
  死者供養と、生きのこりたちへの説教所、託児所もひらいた。

  さすがは大衆のただなかの浄土真宗。
  その説教所が寺となって『震災記念 慈光院』と、
  現に門柱に掲げる。

  そして9月1日には『 すいとん接待 』の看板が立つ。
  境内は付属幼稚園の母子たちで大賑わい・・・・

  平成の童子たちが、大正12年の非業の死者たちとともに
  たのしむ施餓鬼(せがき)供養でした。
  ゆきずりの者にも気前よくふるまうので、
  折々に私も一椀ご相伴にあずかっております。・・・・ 」
                     ( p46~47 )

はい。まだつづいているのですが、引用はここまで。
この引用に『 築地本願寺も全焼しながら・・僧侶たちは駆けつけ 』
とありました。

はい。全然知らなかった私としては、この文ではじめて知りました。
まったく知らないことばかりです。

ところで、方丈記のなかに仁和寺の隆暁法印という名が出てくる
箇所がありました。
 浅見和彦校訂・訳「方丈記」(ちくま学芸文庫・2011年11月発行)
から、適宜引用してみることに。

「 さて隆暁法印(りゅうげうほふいん)であるが、
  『 隆暁 』は『方丈記』全体の中で、同時代人としては
  唯一名前の明記された人物である。・・  」(p114)

はい。まずは原文を引用。

「 仁和寺に隆暁法印といふ人、かくしつつ、数も知らず、
  死ぬる事をかなしみて、その首(かうべ)の見ゆるごとに、
  額に阿字(あじ)を書きて、縁を結ばしむるわざをなんせられける。
 
  人数を知らむとて、四、五両月をかぞえたりければ、
  京のうち、一条よりは南、九条より北、京極よりは西、
  朱雀よりは東の、路のほとりなる頭(かしら)、
  すべて4万2300余りなんありける。・・・・   」(p110)

浅見氏の評を最後に引用しておきます。

「 飢饉の餓死者が京中に溢れ、仁和寺の隆暁法印という人は
  その死を悼み、路傍に死者のあるごとに額に阿字を書いて
  弔ったというのである。

  なんとその数、4万2300余り。当時の平安京の人口が  
  10万前後と推測されていることからすると、
  京都市民の約半数が犠牲になったことになる。

  『方丈記』の記述に従えば、それを隆暁法印が一人で
  書いて回ったというのである。いくら何でも一人では
  無理であろうということなのだろうか、
  さきほどふれた嵯峨本『方丈記』では、

    仁和寺に隆暁法印といふ人、かくしつつかずしらず
    死ぬる事を悲みて、聖を余多(あまた)かたらひつつ、
    其死首の見ゆる毎に阿字を書きて、
    縁に結ばしむるわざをなせられける。

  と『余多(あまた)』、大勢の聖たちの協力を得て
  死者の供養を行ったというのである。・・・・・   」(p113)


注も引用しておきます。

  仁和寺  京都市右京区御室(おむろ)にある寺。
       真言宗御室派の総本山。

  隆暁法印 ・・・・・元久3年(1206)没。72~3歳。
       この飢饉のころは48~9歳。

  阿字   梵語の第一母音〇。万物の象徴として神聖視される。



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