「ワーグナー/リスト編:歌劇『タンホイザー』序曲(ピアノ:重森光太郎)
ベッリーニ/リスト編:「ノルマ」の回想(ピアノ:亀井聖矢)
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23(ピアノ:重森光太郎)
サン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番 ヘ長調 作品103「エジプト風」(ピアノ:亀井聖矢)」
昨年開催されたロン・ティボー国際音楽コンクール ピアノ部門の覇者と入賞者(4位)によるガラ・コンサート。
二人とも、リスト編曲の「タンホイザー」序曲と「ノルマ」の回想の時点で既に”神憑り”状態に入っている。
先日のブルース・リウもそうだったが、リストがアレンジしたオペラ曲を選ぶのが最近のトレンドのようである。
このコンクールのファイナルでは協奏曲を弾くことになっていて、重森さんは超定番の「チャイコン1番」をチョイス。
どうしても、先日の藤田真央さんの演奏と比べてしまう。
大きな違いは、「テンポ」である。
「慣習的なTempoや表現は採用されず、楽譜を綿密に再検討した結果、作品のあるべき姿を提示しようとする強い姿勢に敬意を表します。第2だけでなく、第1協奏曲にも傾聴してください 」
1楽章について言うと、チャイの指示は”あまり速すぎずに”なので、藤田さんはゆっくりと、1つ1つの音がはっきりと響くように弾いていた。
これに対し、重森さん&東フィルは、藤田さんの1.3倍速くらいのテンポで演奏していたが、おそらく、これくらいのテンポの方が主流である。
だが、作曲家というものは一定のテンポを意図しているはずであり、それから外れた演奏が多く見られる、例えばマーラーの「アダージェット」などは、楽譜の解釈として問題があるのだろう(楽譜の解釈(4))。
おそらく審査員を驚愕させたであろう亀井さんの「エジプト風」だが、3楽章では終始”神憑り”状態で、スタンディング・オベーションも当然といった感じであった。
ここで重要なのは、やはりテンポであり、サン・サーンスの指示は”きわめて速く”である。
「しかし国民がその熟練を敬う一方で、彼自身はそれを喜ばなかった。彼には自分の作品に、熱く戯れる気分というあの特徴が欠けているように思われた。それは喜びの産物であり、作品の内実の意味を超えるずっしりと重い利点であり、読者層の喜びであった。」(p15)
演奏者の”喜び”は、「熱く戯れる気分」(feurig spielender Laune)となってあらわれ、それが他者の目には”神憑り”として映ることになる。
その際、「歓喜の歌」もそうであるように、「テンポ」は”きわめて速く”なるわけである。
もっとも、「喜びの島」は、ドビュッシーの姪(?)によれば、「みんな速く弾きすぎる」らしいので、なかなか難しい。