伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)
火の見櫓の段
解説 文楽の魅力
夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
釣船三婦内の段・長町裏の段
火の見櫓の段
解説 文楽の魅力
夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
釣船三婦内の段・長町裏の段
今月の(東京の)国立劇場・文楽は、新国立劇場の小劇場で開催される。
私が行ったのは日曜の午後ということもあり、ほぼ満席という盛況だった。
結構若い人が多いのは、「学生1,800円 」という破格の料金設定によるところが大きいかもしれない。
冒頭で、人形遣いの方による丁寧かつ興味深い解説がある。
人形の構造を示してくれるのだが、かなり複雑で、操作法を習得するのに時間がかかるのは当然であることが分かる。
最初の演目は、「伊達娘恋緋鹿子 火の見櫓の段」である。
「近江国高島家の若殿左門之助が禁裏へ献上する天国の剣を紛失したため、お守役の安森源次兵衛は切腹しました。江戸吉祥院の寺小姓となって剣を探す安森の一子吉三郎は、火事で焼け出されたお七と恋仲となっていましたが、お七は父が店の再建のためにお金を借りた万屋武平衛を婿に迎えなければなりませんでした。
剣詮議の期限の日、お七は剣を盗んだのが武兵衛と知ります。しかし火事の後は九つの鐘(午前0時)を合図に江戸の町々の木戸が締まり、通行が禁じられています。たとえ剣が手に入っても今夜中に届けることができなければ、吉三郎は切腹することになります。思いつめたお七は、火の見櫓の半鐘を打てば出火と思って木戸は開かれるのではと考えました。火刑を覚悟で、雪の凍りついた梯子を滑り落ちながらも、櫓に上ったお七は撞木を夢中で振るのでした。」
剣詮議の期限の日、お七は剣を盗んだのが武兵衛と知ります。しかし火事の後は九つの鐘(午前0時)を合図に江戸の町々の木戸が締まり、通行が禁じられています。たとえ剣が手に入っても今夜中に届けることができなければ、吉三郎は切腹することになります。思いつめたお七は、火の見櫓の半鐘を打てば出火と思って木戸は開かれるのではと考えました。火刑を覚悟で、雪の凍りついた梯子を滑り落ちながらも、櫓に上ったお七は撞木を夢中で振るのでした。」
「・・・下女のお杉が吉三郎を縁の下に忍ばせると、上の座敷では店の借金のため萬屋武兵衛に嫁いでくれるよう、お七の両親が娘を説得している。・・・」(p210)
設定が絶妙!
「天国の剣」を見つけ出さない限り、吉三郎は「殉死」しなければならないのだが、その剣を盗んだのは武兵衛で、お七は「店の借金」のためその武兵衛に嫁ぐよう両親から説得されている。
このくだりだけでも、以下のポトラッチを発見することが出来る。
① 「天国の剣」紛失の代償として命を捧げなければならない吉三郎。但し、未遂なので、ポトラッチ・ポイントは0.5。
② 「『イエ』の存続」のため犠牲強要を受けたお七。但し、これも未遂なので、ポトラッチ・ポイントは0.5。
今回の公演では、「火の見櫓の段」だけが上演されるのだが、火事でもないのに火の見櫓を打つと、火刑に処せられることになっていたという(実話の「八百屋お七」は、放火の罪を犯したために火刑に処せられたそうなので、文楽の設定はやや疑問だが、まあ、よしとしよう。)。
③ 吉三郎の命を救うため、お七は火刑を覚悟で金を鳴らし、(文楽では結末が不明だが)命を奪われたと思われるため、ポトラッチ・ポイントは5.0。
というわけで、「伊達娘恋緋鹿子」のポトラッチ・ポイントは、①+②+③=6.0。