夜の部の前半は、「訓妹背山婦女庭」より「太宰館花渡し」と「吉野川」。
いわゆる日本版「ロミオとジュリエット」だが、このストーリーの要約は結構大変。
「文楽『訓妹背山婦女庭』全段のあらすじと整理」は丁寧な要約だが、短くまとめたものもある。
「春日山を望む小松原。野遊びに出た大判事清澄(だいはんじきよずみ)の息子久我之助(こがのすけ)と、太宰少弐(だざいのしょうに)の娘雛鳥(ひなどり)が出会い、一目で恋に落ちる。恥ずかしがって目も合わせられない二人の仲を腰元たちが吹き矢の竹筒をつかって取り持つ。そこへ蘇我入鹿(そがのいるか)の家来宮越玄藩(みやこしげんば)があらわれ、二人の家は領地争いする敵同然の家柄であることがわかり、落胆した雛鳥は帰ってゆく。そこへ帝の寵愛を受ける采女(うねめ)の局が、入鹿の手を逃れてくる。采女に仕える久我之助は、采女が入水したように見せかけ密かに匿うことにする。」
「少弐の後室(未亡人)定高(さだか)が守る太宰家に、入鹿がやってきて娘の雛鳥をおのれの妃に差し出すように命じる。また大判事をも呼びつけ、久我之助を入鹿の臣下とするよう迫る。命令に従わぬ時はこの花のように散らせると威嚇し、満開の桜の枝を二人に与える。」
今回は「小松原の囁き竹」(文楽では初段に含まれている)は上演されないが、もったいない。
ドラマやバレエでは、見染めのシーンが決定的に重要なのだが・・・。
さて、ロミジュリより親切なことに、歌舞伎では、モンタギュー家とキャピュレット家の対立関係が、背山と妹山を背景とする舞台の上手と下手という形で、しかも間に吉野川を挟む形で、ヴィジュアルに分かりやすく示されている。
つまり、
<上手> 背山・大判事・久我之助
<下手> 妹山・定高・雛鳥
<仇敵関係> 大判事家v.s.太宰家(定高)
<恋愛関係> 久我之助 & 雛鳥
(間に吉野川)という構図である。
こうした中で、暴君:蘇我入鹿は、定高には雛鳥の入内を、大判事には久我之助の出仕を、それぞれ命じて、両家の忠心を試す。
ここで、雛鳥の入内が久我之助との恋の破綻を意味することは直ちに了解できるが、久我之介の出仕が持つ意味は、「小松原の囁き竹」を見ないと理解出来ない。
なので、本来は、「小松原の囁き竹」から上演すべきなのだろう。