終演後の東京文化会館は、とにかく騒がしかった。
私の感覚では、「ブラヴォー!」が8割程度、「ブー!」が2割程度だったと思う。
5階席か4階席から、女性の大きな声で、はっきりと「ブー」が聞えたのが強烈な印象を残した。
このあたりは、クラウドファンディング参加者向けの席と思われるのだが、募集当時のチラシには、
「・・・すると皇后の体に影が宿り、皇帝はもとの姿へ。染物屋夫婦は互いの無事を喜び合う。」
とあり、実際のエンディングとは真逆のストーリーが記載されていた。
ハッピー・エンドだと思ってお金を出したのに、その期待を裏切られたというので、「ブー!」のボリュームも大きくなったということなのかもしれない。
ところで、私が興味深いと感じたのは、「生殖」を大きなテーマとするこのオペラにおいて、「染物屋夫婦」という、当時の典型的な「手仕事」職人が重要な役割を演じているところである。
この点は、岩下眞好先生が的確に指摘して下さっていた(公演パンフレットp34~)。
つまり、西欧の伝統的思考においては、「つくる」こそが、「うむ」と並ぶ創生論の基本動詞なのである(「つくる」、「うむ」、「なる」?)。
他方において、日本神話を特徴づける「なる」の観点は欠落している。
このオペラで皇后が身籠るところは、どう考えても「なる」でした説明出来ないと思うのだが、そういう発想は出て来ないのである。
・・・さて、「影のない女」に出て来るポトラッチ・ポイントは、
・皇后を誘拐した代償として半身不随になった皇帝・・1.0
・不貞の代償として殺された皇后とバラクの妻・・・10.0(=5.0×2人)
の合わせて11.0となる。
というわけで、10月のポトラッチ・カウントは、
・「ザ・カブキ」・・・・・・210.0
・「俊寛」・・・・・・・・・・・6.0
・「権三と助十」・・・・・・・・2.0
・「婦系図」・・・・・・・・・・1.0
・「源氏物語」・・・・・・・・・2.5
・「影のない女」・・・・・・・11.0
で、合計すると、232.5となり、過去最高をマークした。
やはり、「ザ・カブキ」の威力が大きく、「忠臣蔵」こそが日本の暗部=レシプロシテの猛毒を代表する作品ということなのだろう。