◆海賊対処法に基づく護衛では109回
紅の豚が地上波で放送していました。何度観ても細かいところまでの配慮と描写、凄いですね。
この作品には空賊が出てきますが、時代としては義賊の延長線上にあるような海賊というのは中世末期に海軍か探検家に入ってしまって、現在の海賊は洋上強盗、というところでしょうか。マラッカ海峡では通峡待ちで停泊中の船舶に蛮刀を手に海賊が乗り込んできて、ソマリア沖では突撃銃にロケット弾まで持った海賊が沖合の船舶へ小型ボートで乗り付けて不法占拠して身代金を要求します。蛮刀の方は海上保安庁の巡視船が派遣されて取締の支援を行っているのですが、広い海域で漁船に紛れて跋扈するソマリア沖の海賊には洋上哨戒と協同交戦能力を有する海軍でなければ対処できない、ということで海上自衛隊を始め各国海軍がソマリア沖に展開して任務に当たっています。
海上自衛隊のソマリア沖海賊対処任務ですが、6月30日より開始された護衛任務が本日終了しました。12隻の船舶を護衛したのですが、この護衛を以てアデン湾における海上自衛隊の護衛任務は150回を迎えました。アデン湾海上護衛任務第150回の達成です。この任務は、護衛艦むらさめ、ゆうぎり、があたり日本の船舶運航事業者が運行する外国船籍船で自動車専用船2隻、タンカー1隻、外国船では一般貨物船5隻とタンカー4隻を護衛しました。船団護衛方式での海上自衛隊による海賊対処任務は警護対象船への被害が0、という記録を維持しています。
海賊対処任務では、水上部隊は現在第五次派遣部隊が任務に当たっていて、海賊対処行動航空隊として派遣されている航空隊も第四次派遣部隊が任務に当たっています。第一次海賊対処水上部隊では、護衛艦さざなみ、さみだれ、が派遣。第二次派遣部隊では、はるさめ、あまりぎ、が派遣。第三次派遣隊では、たかなみ、はまぎり、が派遣。第四次派遣では、おおなみ、さわぎり、が派遣、そして現在の第五次派遣では、護衛艦むらさめ、ゆうぎり、が派遣されています。派遣航空部隊では、P-3C哨戒機が派遣、上空から現在世界最高の性能を誇る哨戒機、間もなく日本のP-1が世界最高になるのですが、上空から監視の目を光らせています。
しかし、護衛任務への完璧な対応とともにジプチ大統領から派遣部隊指揮官が激励を受けるなど世界的にも高い評価を受けている一方で、非常に残念ながら殉職者が出てしまいました。6月9日、護衛艦ゆうぎり艦内において隊員の死亡事案が発生してしまいました。1936時、艦内でタンクから発生したガスにより隊員1名が意識不明となっているところが発見され、ただちに応急措置をとるとともに、艦載ヘリコプターによってジプチのフランス軍病院へ緊急搬送を行ったのですが、残念ながら殉職、海賊対処任務において初めての殉職者、となってしまいました。ゆうぎり、は23日から護衛任務に復帰しています。
アデン湾、というのは欧州からインド洋と太平洋を結ぶ重要な航路で、大西洋から地中海を経てアジアへ向かう掛け替えの無い重要航路です。そして中東地域に隣接しているこの地域は石油輸送でも日本の死活的利益に関わる海域です。日本の海上自衛隊は、欧州各国のNATO加盟国の海軍が決して余裕がある訳でもないほどに縮小されていて、米海軍にもかつてほど、艦船の数に余裕はありません。中国海軍やインド海軍、韓国海軍も艦船を派遣しているのですが、艦船の数はやはり充分では無く、ここに恒常的に必ず2隻の護衛艦を継続して派遣できる、という一点は非常に大きなポテンシャルを発揮していて、同じく洋上哨戒機を各国海軍は自国の周辺海域を警戒する程度の数しか保有していない中、海上自衛隊には80機のP-3C哨戒機がありますので、この中の数機が派遣されている、というのは大きな意義があります。先進国のマスメディアで海賊問題をあまり報じていないのは日本ぐらいなのでしょうが、被害は深刻である分、日本の貢献は高く評価されていて、この日本が第150回の護衛任務を達成した、というのは少なくない意義を持っていると言えるのではないでしょうか。
HARUNA
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