一昨日の書店訪問で、「ぶらりミクロ散歩」(岩波新書)を立ち読みしていたら、著者の娘さんがフランス人と結婚して、その娘さんが孫娘を連れて帰郷したときの話が出ていた。立ち読みなので間違っているかもしれないが、書いてみよう。
孫は日本語はわかるが、話すことは出来ない。一日孫に振り回されていたが、おじいさんである著者は夜風呂に入ったときには「やれやれ」孫から解放されたとゆったりとした気持ちになっていた。
ところが孫がきて、biseビーズ(夜寝る前のキス)といったと言う。「みず」と言った思ったので、「婆にもらえ」といったら、孫は話が通じないと思ったのか、au revoirオウ ボワール(さよなら)といったらしい。ところが「みず」がほしいと思っているので、爺はa boireア ボワール(飲みもの?)といったと解した。
結局、爺の裸の手が風呂の中からぬっと出てきたので、孫はわっとびっくりして寝室に泣いていったとか。
これは多分に話を面白おかしくするために脚色をしているのだと思うが、なかなかほほえましい。後でフランス人のパパに電話で、孫は爺と「フランス語で話すのはいや」といった言うのが話の落ちであった。
biseが通じないとわかったとき、幼児でもau revoirは夜寝る前のあいさつとして通じるだろうと思ったのはなかなか「あっぱれ」である。こういう機転はなかなか外国語として学んでいる私たちには思いつかない。
もっともau revoirはカタカナで表記するとオウ ルヴォアールとなるが、私にはルヴォアールのルはほとんど聞き取れない。オウ ボアアールと聞こえる。それでa boireと聞こえたのはなかなかの聞き取り力だと言える。ほめてあげてもよくて、文句をつける筋合いはない。
いまa boireの例がないかと思って仏和辞典を引いてみたら、chansons a boire(酒の歌)というのが出ていた。
もし本当に水がほしいなら、de l'eau, s'il te paitとかje voudrais (veux) de l'eauとかいうだろう。小さな幼児だからde l'eauだけでも十分かもしれない。水はeauだが、部分冠詞de l'をつけてde l'eau(ドゥ ロオー) という。
昔、数学者の岡潔氏か誰かがフランスに留学したときに水を部分冠詞をつけて言わねばならないのに、eau, eauといってもなかなか通じなくて困ったとかいうのを書いていた。
話はまったく別だが、何十年も昔に岩田一男先生の「英語に強くなる本」というのがベストセラーで売れたことがあったが、その中で赤はレッドではなく、横浜のリキシャの車夫英語では「ウレ」という風に発音されていたという。
rは英語では知らないが、ヨーロッパ語では舌が口の後ろに引かれた形でのどの奥の方から音がでてウのような音に聞こえるのだと思う。
だからか、私の友人のY君などはフランス語では「さよなら」は「オウバース」というと学生の頃いっていた。それはテレビのフランス語会話等の、最後のところを聞いていのだと思う。書いた字にこだわるのも滑稽だが、音だけでも外国語を習うのもまたなかなか難しい。
(2013.4.3注) biseをbizと書いていたので、いま辞書を調べてbise(ビ-ズ)と直した。se faire la biseがキスをするという意味である。もっともキスをするといってもほっぺたにチュッとする。bisという語もあるが、こちらはビスと発音する。日本語のコンサートでのアンコールであることは最近知った。