があるか、それともないか。たとえば、私の関心をもつ四元数だが、私が『四元数の発見』(海鳴社)を出版する4か月ほど前に金谷健一さんの『幾何学と代数系』(森北出版)が出版された。しかし、私はこの本を参照する時間はなかった。すでにこの本が出版されたときには私の本の原稿は最終段階であり、テーマとその内容が気にかかったが、『幾何学と代数系』を購入してそれを見たのは、だから私の本が出てしまった後であった。
一方、志村五郎先生の『数学をいかに使うか』(ちくま学芸文庫)は4章に「四元環の重要性」があったので、そこを見た(読んだとはとてもいえない)のだが、私は物わかりが悪いので、あまりよくはわからなかった。ただ、四元数の元1, i, j, kをパウリ行列と結びつけるという話はそこで学んだと思う。その対応の仕方には私の本でも言及した。
一方、今野紀夫さんの『四元数』(森北出版)はおよそ私の本が出てから2年後に出版された。だが、この本は四元数を使ったその応用に重点があり、それに必要な四元数の知識という様相が強い。それと四元数の応用に必要な知識という点でちょっと公式集のような側面もあり、この本が出るまでこのような点にまったく関心がなかったので、なるほどと思わされるものがあった。こういう本は必要であろう。
『四元数』に引用されている訳本も含めて日本語で書かれた四元数関係の本は7冊にもなっていて、私が四元数関係の日本語の本は4冊だと書いたのとはちょっとちがった。もっとも金谷一朗さんの本を2冊私も引用しているから、実は6冊あった。それに今野さんの本を合わせて、今では8冊もあることになる。
もっとも4冊には志村先生の本を数に入れていなかった。これはこの本を四元数の本というふうには理解していなかったからである。少なからぬ影響を受けていたにもかかわらず。