宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

ねじれ解消、最低保障年金骨抜きで民主党が社会保障3党実務者協議から当然の離脱も税制は継続

2013年08月05日 21時40分14秒 | 第184臨時国会(2013年8月)黄金の3年間

 民主党は2013年8月5日(月)、与党期の昨年の第180通常国会で「棚上げ」した年金制度の将来像が内閣府の社会保障制度改革国民会議(主務大臣・安倍首相、会長・清家慶応義塾長)の最終報告書で骨抜きにされたことと、自民党の対応が不誠実だとして、3党協議からの離脱を決定し、長妻昭実務者が、自民党の野田毅実務者に電話で通告しました。

 自民党による年金3党合意のほごは、2005年8月8日の小泉首相の郵政解散以来、8年ぶり2度目。

 一方、桜井政調会長は、「税制の3党実務者協議には残る」としました。 

 自民党への政権再交代と、衆参ねじれ解消により、歳出面での与党と民主党の腐れ縁はなくなったため、今後は先の通常国会での行革をめぐる「民維み生」の野党4党共闘路線が強くなるのは確実。

 歳入面での責任を共有する、自公民3党協議は続くことから「消費税増税の共犯者」という責任の共有をいつまで続けるかが焦点になります。これについて、桜井政調会長は「松本剛明税調会長らがやっている3党税調会長協議は、減税の協議だ」と強調。やや苦しい弁明ですが、これは事実。

 平成24年税制抜本改革消費税法で消費税の増税が決まり、このとき3党合意で削除された、相続税増税も、ことしの平成25年税制改正所得税法で2015年1月の施行が決まっています。

 今後3年間の税制改正は、公明党が求める消費増税の負担軽減と自民党が求める法人税の租税特別措置減税の継続・新設が議題になります。この公明党と自民党の異なる希望に、民主党がどのようにかかわり、消費増税の共犯者として責任を共有するかが責任政党のカギになりそうです。

 午後3時から、首相官邸で国民会議の最終回が開かれたのにあわせて、民主党は午後6時から国会内で「社会保障と税の一体改革調査会」と「厚生労働部門会議」の合同会議を開きました。

 内閣官房の審議官は、「あす、あさってに首相に手交(しゅこう)予定の最終報告書」について説明。この後、国会議員10名弱が数十分、議論し、すでに代表や、当時の閣僚から一任を取り付けいてた桜井政調会長が同日付の民主党名で「今後民主党は、三党合意を踏まえた議論ができないような社会保障実務者協議には応じないこととした」「民主党は、今後も国会で社会保障制度改革を提案し、国民の理解を得ながら、その実現に全力で取り組む所存である」などとした1枚ペーパーを発表しました。

 【「当時の総理」よばわりの野田さん、「残された課題」へ「2段階のアプローチ」という骨抜きの霞が関文学】

 最終報告書を内閣官房社会保障制度改革担当室の審議官と参事官の2人が説明。このうち、参事官は昨年1年間、岡田副総理のかばん持ちの事務秘書官だったので、よく平然と座ってられるものだと感心しました。

 最終報告書の39ページから41ページが「棚上げした年金の将来像」の回答。

 これは、「霞が関文学」で先送りというよりも骨抜きにされました。

 まず、見出しが「1・社会保障・税一体改革までの道のりと到達点・残された課題」となっており、早くもあやしい雰囲気。

 3党合意の経緯を振り返るなかで、「また、改革推進法の立法過程では、「社会保険方式を基本とする」ことが3党で合意された」と説明。これは事実で、私は昨年6月22日に3党合意を読んだ時から、この「社会保険方式を基本とする」は気になっていました。最低保障年金は「全額税方式を基本とする」からです。やはりこの引っ掛かりが1年たって、見事にやられた格好ですが、あの党内外に敵がいる状況で、細川律夫さん、長妻昭さんの法成立にかける奮闘を考えれば、これはもうしかたがなかったと考えます。

 40ページでは現行制度は「改善すべき課題は残されているが、現行の制度が破綻していないという認識を、一体改革関連法案の審議の過程で、当時の総理大臣も答弁している」と、第95代野田佳彦内閣総理大臣のことを「当時の総理大臣」呼ばわり。

 41ページで霞が関文学はクライマックスに。

 「年金制度の一元化をどう考えるかに関しては、その距離感や妥当性について、委員の間で認識の違いが存在した

 「同時に、」

 「このような認識の違いはあるものの、条件が満たされた際に初めて可能となる将来の議論で対立して改革が進まないことは、国民にとって望ましいものではないという認識は共有された」

 「すなわち、年金制度については、どのような制度体系を目指そうとも必要となる課題の解決を進め、将来の制度体系については引き続き議論するという二段階のアプローチをとることが必要である」

 この霞が関文学を翻訳すると、15人の委員の間で、年金の抜本改革について認識が違うということを確認したが、改革が進まないことは望ましくないという認識は共有されたので、二段階のアプローチをとる。すなわち、「現行制度を当面存続する」ということであって、現行制度(2004年自公年金改正法)維持という結論にかわりありません。つまり、今と何も変わらないのです。

 この文書の途中には「これらの対応は、所得比例年金に一元化していく立場からも通らなければならないステップである」として、「所得比例年金」の文字はあるのに、その基礎である、「最低保障年金」の文字はどこにもありません。民主党会議で説明した審議官も朗読中に、「所得比例年金」を飛ばし読みしました。最低保障年金の文言はなく、所得比例年金は飛ばし読みしたところに厚労官僚の本音が見えました。

 ただ、民主党内にも全面移行まで40年かかり、月7万円のためには消費税率を18%以上にしなければならない最低保障年金と所得比例年金のミックスには異論があります。2003年のマニフェストから10年間入り続けていますが、長妻さんのいう通りの国会闘争をするにも、本格的な国会論戦は消費増税決定後の10月中旬以降の予定で、法案は、与党期も含めて一度も提出できていないことから技術的にも難しく、最低保障年金の旗は、そろそろおろす時期が来ているのかもしれません。

 結論としては、野田さんを「当時の総理」、「二段階のアプローチが必要な残された課題」との表現で、3党合意はほごにされました。こういった官僚の霞が関文学を自由にやらせるのが、自民党政権の本質にほかなりません。

 霞が関文学を読み解きながら、3年後に再び政権復帰した後は、抜本改革の骨抜きを許さない政治主導が必要です。そもそも、最終報告で「最低保障年金はだめだ。現行制度の拡充が必要だ」と書いても、3党合意や、社会保障制度改革推進基本法には反しません。

 一方、歳入面での3党税制改正実務者協議は続くので、やはり、公明党の斉藤鉄夫会長が提案する消費増税の負担軽減策に耳を傾けるべきでしょう。参院では公明党とあわせて自民党ははじめて過半数です。ある程度「増税の共犯者」になる負債を負うことで、小選挙区における資産を得られる可能性があります。

 とはいえ、民主党も、随所でだまされた弱さがあります。そもそも3党実務者協議の存在はマスコミでほとんど報じられていません。長妻さんとともに実務者に抜擢されていた梅村聡さんは、参院選で落選してしまいました。このような重要な交渉の担当者だった実績を知っていた有権者はひとりもいなかったかもしれないとすら思います。

 きょうの国会議員同士の協議も、結論はすぐに出たうえで、「マスコミはどう報じるか」という話だったようです。

 このような経緯をよく理解したうえで、しっかりと説明できるかどうかの、説明力が、すべての民主党員に求められています。政策決定を全総支部長に伝達する「政調アプリ」を開発して配布するなどといったシステム構築が必要です。ふざけてい言っているのではありません。3年間選挙がないのだから、そのくらい、のんびりと構えながらも、説明力、説得力を身に着けていく必要があります。

 それが民主党にとっての黄金の3年間です。