時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

果てしないせめぎあい

2006年11月15日 | 移民政策を追って

  NHKBS1がアメリカの移民問題について、久しぶりに?タイミングの良い番組を放映していた*。このブログでも定点観測しているアメリカの移民政策にかかわる番組である。中間選挙の結果を受けて、イラク問題に続く重要問題として与野党ともに真剣に取り組まねばならなくなっている。

  カリフォルニア州コスタメサ市 Costa Mesaは、メキシコ国境に近い。多数のメキシコ人が不法に越境して働きにくる。住民との間でさまざまな軋轢・衝突が生まれている。

  こうした状況で、コスタメサ市は増加した不法移民に対して市警察が介入、捜査活動に当たるという対応に踏み切った。発案者のアラン・マンスール市長は刑務所の看守を勤めたことがあり、不法移民が減れば犯罪も減るという考えの持ち主である。市の犯罪が増加し、生活環境も劣化しているこの町で、メキシコ国境を越えて入国してくる不法移民が、その原因になっているという考えである。

難しい合法・非合法の線引き
  市警察が捜査活動を強化し、犯罪容疑者を調べて凶悪犯罪者を移民局へ引き渡し、強制送還へつなげるという考えだ。しかし、警察が不法移民の犯罪捜査を始めると、市民の3割以上はヒスパニック系であり、大きな不安を生み出すことになりかねない。当然、反対も強まる。不法移民=犯罪者ではないはずだという論理である。しかし、不法移民はすでに越境という違法行為を犯しているではないかと、先住者は反論する。

  越境入国者と先住者との溝は深い。このコスタメサ市でも、自衛組織としてのミニットマン・プロジェクトが生まれた。不法滞在者のために税金を使うべきではないとして、市長は職業紹介所の閉鎖に踏み切った。結局、市長の政策をめぐって、市長派および反市長派の候補の選挙で、市民の考えを問うことになった。

新移民対旧移民の対立
  移民擁護派(反市長派)として、ヒスパニック系のミルナ・ブルシアナ候補が立候補した。彼女も移民であり、今は市内でメキシコ・レストランを経営している。市長もエジプト人の父親とスエーデンの母親からなる移民の子供なのだ。その意味では、旧移民と新移民の対立という面もある。

  住民は、越境してきたメキシコ人労働者は町を大切にしないという。他方、住民は、アメリカ人がやらなくなった建設工事、造園、サービスなどの仕事を引き受けているという。日給70-90ドル。アメリカ人にとってはきつい労働だが、越境者にとっては、メキシコでの1週間分に当たる。

  たまたま10年ほど前にカリフォルニア州南端のサンディエゴと日本の浜松地域のフィールド調査をしたことがあった。当時と比較して基本的な違いは感じられない。しかし、南から北を目指す人の流れは一段と大きくなったようだ。メキシコ国境沿いの町ティフアナには金網フェンスも設置された。物理的な国境は強固になるばかりだが、それを乗り越えようとする力も格段に強まっている。

  選挙結果では、現市長と市長が押した女性候補が当選した。寄せては返す波のように、せめぎあいは果てしなく続く。 連邦レベルでは、共和党と民主党が協力しないかぎり、新たな次元を切り開く移民政策は生まれない。アメリカにメキシコの旗が翻る日はくるのだろうか。その動きを見つめたい。


* NHK/BS1 「不法移民に揺れる町」 2006年11月11日

** 中間選挙と並行して行われた投票で、アリゾナ州は英語だけが公用語であることを確認した。

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