時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

アメリカ大統領選の混迷と行方 

2024年09月30日 | アメリカ政治経済トピックス


アメリカ大統領選も大詰め間近かとなった。本ブログで、もしアメリカ大統領選で共和党ドナルド・トランプ候補が民主党バイデン候補(現カマラ・ハリス候補)に敗れるような事態になれば、2021年1月6日に起きた国会議事堂襲撃のような事件が再び起こり、アメリカは分裂、内戦状態になるとの政治分析をめぐり、コメントを書いたことがある。

その後、アメリカの大統領選をめぐる政治舞台は大きく変わり、民主党バイデン候補が引退しハリス副大統領が候補を継承するという事態となった。一時はトランプ候補優勢の予想もあったが、トランプvハリス候補の対面論争を経て支持率はいまや逆転、帰趨は分からなくなってきた。現在の状況は、ユーガブ、ABCなど実績ある調査を含めて、ハリス候補が優位にあるようだ。対面での議論も、トランプ候補の過度に挑戦的で、しばしば突発的で支離滅裂な発言に対し、検察官経験者のハリス候補の冷静な対応が好感度が高かったようだ。

大統領選に関する世論調査は多数存在するが、ここでは主に筆者が長年信頼してきたThe Economist誌の世論調査追跡システムの結果を参照にした。

年齢の点でも、59歳のハリス候補は、バイデン候補より20歳以上若く、トランプ候補より18歳若い。皮肉なことに、トランプ候補がバイデン候補に誇示していた優位が覆ってしまった。相手に付け入る隙を与えないという弁論術の点でも、ハリス候補はトランプ候補の挑発を巧みに交わした。

しかし、選挙は水もの。実際にその時が来たら何が起こるかは分からない。とりわけ近年のアメリカの大統領候補選は波乱の連続だが、ほぼ順当ならば、ハリス大統領の誕生につながりそうだ。多くの政治批評の論調も「彼女は勝てるか」から「彼女はどのように統治するか」へと移行している。

危険なのは、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩総書記などの専制国家指導者たちとの外交関係が、選挙政策として使われることだろう。トランプ候補が時々公言するように、双方が相手を組みしやすい「良好な関係」にあると喧伝し、自らの立場の強化に利用する危険は、かねて指摘されている。インターネットを主たる舞台に、世界に氾濫するフェイクや暴力、政治的分断を煽るニュースやSNSなどに翻弄され、危険な方向に世論が誘導される可能性はかつてなく高まっている


N.B.
筆者がたまたま目にしたTV番組「米議会襲撃が再び起きたら シミュレーション 緊迫の6時間」[原題:WAR GAME(アメリカ 2024年)© 2023 Boat Rocker Studios & Anonymous Content]は、2024年大統領選の結果を受けて再び議事堂が襲撃されたら、大統領と政府中枢はどう対応すべきか?という大規模な暴動を想定した、軍関係者や政治家による演習の記録であった。2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件を受けて、2025年1月6日、大統領選挙確定手続きのタイミングで反乱が起きた際にどのような事態が発生するのかを議会関係者集めてシミュレーションした作品である。

この2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件( 2021 United States Capitol attack)は、2021年1月6日にアメリカ合衆国で起きた政治的な暴動事件。当時の同国大統領であったドナルド・トランプの支持者らが[2020年のアメリカ合衆国大統領選挙で選挙不正が次期大統領に就任することを正式に確定しようとしていた最中であった。議事は中断され議会機能が一時的に喪失した(上院が5時間53分、下院が6時間42分)。

退屈な番組が多い昨今では、珍しく特筆すべき緊迫感を持った作品で、アメリカではこういう作品が制作できるのだという驚きを感じた。久しぶりに画面に見入った作品だった。

来るべき大統領選において、民主党ハリス候補、共和党トランプ候補のいずれが当選しても、アメリカ合衆国においては、国内におけるさまざまな分裂、そして分断が進行しそうな予兆が感じられる。国内に多くの問題を抱え、とりわけ外交力が弱いとされる民主党政権は、世界の紛争処理にまで十分対応できないのではないか。結果として、アメリカの地位・勢力は後退する。

21世紀の初頭から戦争の世紀の色が顕著となっている世界に、アメリカの国力低下はさらに不安材料を持ち込みそうである。日中という互いに対決する大国の間で、多事多難な日本の新政権は、一体どこを目指すのだろう。

生来、暑さには強かった筆者だが、9月に入っても30度を越える酷暑に流石にバテ気味、予定外の仕事も重なり、書きかけのメモも中途半端に。今日で9月も終わる。やっと10月、もう10月。


References
"SECOND CHANCE" TIME, Vol.204, Nos 5-6, 2024
"How she can win?"  The Economist July 27th-August 9th 2024
"How would she govern?" The Economist August 24th-30th, 2024
エヴァン・オズノス(笠井亮平訳)『ワイルドランド アメリカを分断する怒りの源流』上下、白水社、2024年




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時空を旅して:「進歩」とは

2024年09月11日 | 午後のティールーム



21世紀が始まって、ほとんど4半世紀が経過した。見るとはなしにTVを眺めていたら、あの2001年、9月11日に突如として起きたアメリカ同時多発テロの番組を放映していた。忘れようとしても忘れられない光景だ。今日はあの日から数えて23年目に当たる。過ぎてみれば、なんと短い時間だったのだろう。


世界にはこの間あまりに多くの悲惨な出来事が起きた。戦争は世界各地で絶えることなく続いてきた。

世界貿易センター(ワールド・トレード・センター)へ立て続けに2機の航空機が突入する衝撃的な光景が目の前に再現されていた。筆者もこのビルで働く友人に会いに何度か訪れたことがあった。このブログの初期の頃に、的確なコメントを寄せられていたK.N.さんもそのひとりだった。

World is Small
TV画面には、ブログ筆者自身、若い頃に短い期間ではあったが働く場所を共にした住山一貞さんが写っていた。筆者は間もなく転職したことで、その後再会する機会はなかったが。

住山さんの長男の住山陽一さんは、当時、34歳、当時の富士銀行で金融マンとして、世界貿易センタービル(ワールド・トレード・センター)にある銀行のニューヨーク支店で働いていた。

このテロ事件によって、判明しただけで、日本人24人を含むおよそ3000人が犠牲になった。筆者のアメリカ人の知人も犠牲者に含まれていた。

陽一さんの遺族は、その後今日まで同時多発テロの真相を究めるため、多大な努力を費やしてきた。なかでも、父親の住山さんはアメリカの独立調査委員会がまとめた567ページにわたる報告書の邦訳に人生を捧げてきた。

Terrorism  Everywhere 
筆者自身にとっても、9.11は大きな心の転機をもたらした。この話は、本ブログにも短く記したことがある。

住山さんはテロリズムの真相を追って、その後の人生をその追求に費やした。言葉に尽くし難い日々であったろう。その後、テロリズムは世界中に拡散し、いつどこで、何が起こるか分からない時代となった。筆者もオウム真理教の地下鉄テロを電車一本の差で、免れたこともあった。

筆者の友人が遭遇して犠牲となったテロ事件は他にもあった。これもブログに記したことがある。テロリストに襲撃され、命を落としたイタリアの友人の話もそのひとつだ。
世界は小さくなり、リスクは至る所にある。

一時は大きな希望が寄せられていた21世紀だが、四半世紀を過ぎた今、その前途はかつてない多くの不安に包まれている。人類は果たして「進歩」しているのだろうか。「進歩」とは何か。終幕近い小さなブログでは、到底答えられない問いがそこにある。







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