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写真展,簡捷,鑑賞,感傷

2013年08月08日 | 雑記帳
 県立美術館で開催されている篠山紀信展に行ってみた。写真家としての篠山紀信に特に興味があるわけではないが,なんといってもGORO世代(笑)である。十代で知っていた写真家はわずか数人だったろうし,なんと言っても「激写」シリーズは,単なるグラビアと一線を画す写真があることを教えてくれた。


 写真ってこんなに拡大できるものなの,というほどのサイズだった。新しい美術館のシンプルな構造にも似合っている。しかし,大きければ大きいほど作品数は少なくなるわけで,この写真家の世界に浸りたいと考えれば,もうちょっと点数が多い方が個人的には好きだなあ。ああこれは自分の小物感を露出したか。


 ほとんど名前がすぐ浮かぶ有名人のなかで,あれっ誰だと思ったのは一人の少女の写真。目に宿る意思の強さが少女の持つ危うさと相まって独特の世界を醸し出している。パンフで名前を確認すると「満島ひかり1997」とある。なるほど。「ええっ,そうだそうだ,あの人」と隣で若い女性同士が言い合っていた。


 一番気にいった作品は,SPECTACLEと題された歌舞伎役者を写したコーナーにあった。海老蔵や玉三郎の艶やかさも見事ではあったが,ずんと心に響いた片岡仁左衛門「道明寺」の拝む姿である。原色の世界が展開されているなかで,そこだけ地味な色合いが基調となり,祈りを強烈に感じさせる一枚だった。


 震災で被災された人々の写真を見ながら「紀信のテーマは,顔なんだな」と思った。後から見たパンフの文章にもそんなふうに書いてあった。人には数えきれないほどの顔があり,それらは正直に,心や,場や,時や,空気を映す。被災された人々の肖像は全員が正面直立。その顔が物語っている全てが迫ってきた。