すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

幸せなスピードを想う

2013年08月23日 | 読書
 先週末からの旅行で、バッグに詰め込んだ文庫本の一つがこれ。

 『いまを生きるための教室~今ここにいるということ』(角川文庫)

 もともと「中学生の教科書 今ここにいるということ」と題されて四谷ラウンドというところから発刊されたものらしい。
 秋山仁、板倉聖亘などといった方々が、国語・体育・数学・芸術・理科・外国語・社会と一応区分されたなかで、語りかけている。

 といっても、今時の中学生にはやや難しいのではないかと思う。
 いやこれぐらいが普通で、自分の頭が中学生レベルなのかもしれない、という気持ちもあるにはある。
 個人的に興味深く楽しく読めたのは、やはり国語と、社会、それに芸術というところか。


 国語担当は作家佐藤亜紀。
 「小説なんか読んでいる場合じゃない」「読むなら実録を読みなさい」という一見過激なその結論も、結局言葉を使って何ができるかを追究する過程で生まれてくる。次の一言を具現化するためだ。

 一番いいのは、嘘を吐かずに騙すこと

 ある意味、相手を動かすという根底をみた気がした。


 社会科は一番の長編で、執筆は社会学者大澤真幸。
 「責任」について一貫した論を展開している。
 震災前に書かれている文章だが、原発事故等のことと結びつけながら、このリスク社会を考えざるを得ない。

 結論として締めくくられるのは「責任と赦し」ということ。
 「赦し」が具体的にどういう行為を指すのか、著者は明示していないが、方向としてそれしか救いがない「細い道」への志向である。
 どのレベルで「責任」という語を口にするか、ちょっと読み込まなくてはならないと思わせられた。


 芸術担当は、映画監督の大林宣彦。
 美術や音楽について何か具体的に語っているわけでなく、いわゆる幸福論的な筋をつくっている。
 そこで紹介されている、レオナルド・ダヴィンチの言葉がなんとも印象深く、全体を貫くテーマとなっている。
 ありきたりの言葉に見えるが、ダヴィンチの業績や目指したことを考えると、本当に深い意味があるはずだ。

 人間がA地点からB地点に移動するための乗り物は馬が一番良い。
 なぜならば、それが人間にとって一番幸せなスピードであるからだ。


 飛行機を乗り継ぎ、レンタカーで数百キロを駆けた旅行を、見事に皮肉られた気がする。
 帰ってみて確かにその通りだよなという思いが出ているのは、まんざら齢のせいだろう。
 見過ごし、通り過ごしたことの多さよ。