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桜と絵本と豆乳と

供給によって「観」を確かに

2014年04月01日 | 読書
 「2014読了」35冊目 ★★

 『大局観』(羽生善治   角川Oneテーマ21)


 新年度間近、ここは少し年齢にふさわしく「大局」について学ぼうかと手にとってみた羽生名人の新書である。

 もちろん、将棋に関わる今までの豊富な経験をもとに書かれているわけだが、幅広い教養を感じさせる書きぶり、引用があり、なかなか面白かった。

 教育を考えるうえでも、深く納得できたり、新鮮に感じたりした視点が多くあった。いくつか引用してみよう。


 集中力をより深くする方法の一つは「可視化が難しいテーマ」について考えることと、私は思っている(P64)

 「目隠し将棋」のことについて触れている部分である。
 これは、多くの優れた実践者が「耳を鍛える」ことを強調していることと共通点があるように思った。


 すべてを教えるのではなく大部分を伝え、最後の部分は自分で考えて理解させるようにするのが、理想的な教え方ではないかと考えている(P90)

 コーチングについて書いている部分である。古くからある考え方とも言えるが、ある意味では典型的な授業論の一つと言えよう。


 情報化社会を上手に生き抜いてゆく方法は、供給サイドに軸足を置くことだと思う(P127)

 ネット将棋がかなり浸透してきている現状での構えについて述べている。
 インプット中心では、いかなる仕事においても道を究めることはできないし、それどころか情報の洪水に飲み込まれてしまう危険性が高くなることは,ここでも指摘されている。


 この著は、いわば名人の語る「不易と流行」である。
 「大局観」とはその見極めであると言っても間違いない。

 そして,名人であってもこうした著を仕上げる,つまり供給することによって,その観を確かなものにしていくのではないか,そんな考えが浮かぶ。