すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

「まだある。」の感覚を探す

2014年04月09日 | 読書
 「2014読了」38冊目 ★

 『まだある。』 (初見健一  大空ポケット文庫)

 この書名で、どんなことが思い浮かぶだろうか。
 小説なら、いろいろなパターンが考えられそうである。

 その意味で、象徴性を含む一言なんだあと思ったりする。
 たとえば「あきらめない」「負けない」「ここから始める」といった連想が働くからだろうか。
 傷ついてもなお、前に進もうとする男の姿が見える。

 なあんて、ずいぶんとひっぱったが、副題で全てはわかる。


 今でも買える゛懐かしの昭和゛カタログ ~食品編~

 ここで取り上げられているのは、60~70年代の高度成長期に発売されたお菓子やインスタント食品が主であり、見開き2ページに一品ずつ、商品の写真と説明、うんちく等で構成されている。つまり「まだある」と形容されるちょっと懐かしい食べ物カタログである。

 著者とは年齢が一回り違うが、8割以上は知っていて(つまり食したことがあり)、思わず「あったあった」「んだっけなあ(そうだったなあの方言)」と口からことばがこぼれた。

 もちろん「今でも買える」のだから当然だが、そういうふうに懐かしい気持ちにさせられるのは、今はあっても目に入ってこない、つまり距離がずいぶんと離れたことを物語っている。
 嗜好は加齢に伴って変化するだろう。しかし舌の記憶は結構頑固なはずで、写真を見ただけで、味を想起させるものも少なくなかった。

 ここに載っているものでベスト3を挙げれば


 カルミン(ミントタブレットと言っていいのだろうか)

 アーモンドグリコ(キャラメル。あのアーモンド味のおいしさ)

 シャービック(製氷機でつくる家庭用シャーベット)

 というところか。あの味は好きだったなあ。言葉ではなかなか言い尽くせないが、舌でならよく覚えている。

 また、ロングセラーにも歴史があること(「コカ・コーラ」の500mlビンのことや「チーかま」の溶けないチーズの開発話など)も面白かった。

 文章として、深く感じ入ったのは「ポンジュース」の件である。

 果汁を味わうポンジュースは今も昔も「まじめな」飲みものであり、今一つ消費が遅かったようである。
 それは「お子様ゴコロをソソらない」からだと書いてある。
 コーラやファンタが愛された訳を、筆者はこうまとめてある。

 
 このウッスラとした罪悪感こそがジュースの「味」だった。

 
 そうだったなあ、と罪悪感から遠く離れてそう思う。

 でも,それに似た感覚は「まだある。」のかもしれない。