すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

文章作法に,目を閉じて

2014年08月12日 | 読書
 「2014読了」77冊目 ★★★★

 『縦横無尽の文章レッスン』(村田喜代子 朝日文庫)

 久しぶりの四つ星本だ。面白かった。

 芥川賞作家である著者が,大学での文章講座をもとにテキストにした文章や自分の分析,学生の作品などを紹介しつつ,エッセイ風に出来事も織り込んでいる。

 テキストの最初が,小学生の作文であることが自分を惹きつけたといってもいいだろう。
 取り上げた著者の意図と考察はこうだ。

 書くべきことと書かないことを選択し,大胆かつ細心に書く。一見難しそうだが,ここで参考に出した子どもたちの文章はそれをクリアしているのだ。どうやってこの子たちはたいして悩んだ形跡もなく,するりとクリアしたのだろう。


 その結論として「生き生きと動いている心を持つ」という小学生における作文指導の肝の一つを挙げていることは,当然ではあるように見えて,大学生に対して突きつけたことはずいぶんと重い。

 解説の池内紀氏は,その点について言及している。

 小学二,三年のころが,もっとも日本語に敏感な時期であって「成長」するにつれ人間は世間知と引き換えに,驚くほど早々と言葉の知恵を失っていく。

 この見方の深度にはたどりつけなくとも,疑いもなく「成長」を世間と同調させない感性を,教師としては持ちたいものだ。


 テキスト選択のバラエティが面白く,次々に読ませられる。
 『2000年間で最大の発明は何か』というアンケートの回答集,大関松三郎の詩のいくつか,鷲田清一や竹内敏晴の身体論など…視点を変えながらも一貫していることに,観察力があることは確かだ。


 講座の後期第五週にある小見出しが,一つのまとめであるし,やはり文章作法(さくほう)の最重要事項であろう。

 対象物をじっくり見てみよう
 しかるのち,目を閉じる
 物事の本質はそれからでないと見えてこない


 しかしこの作法を,今の時流の中で実現させようとすると,いくつもいくつも見直すことが必要になる。

 結局,何を手離したらいいか。そこまでして良い文章を書きたいか。「良い文章」とは何なのか…そうやって本質に迫っていけるだけの気力,体力…

 とたんに自信がなくなっていく。


 それはともかく,第六週で紹介された『ねずみの女房』という童話があまりに面白くて,すぐに注文してしまいました。