すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

伝えにくいから,伝わること

2014年08月29日 | 読書
 2014読了」88冊目 ★★

 『こころに詩をどうぞ』(川崎 洋  ちくまライブラリー)

 久しぶりの詩の本だ。
 といっても詩集ではなく,川崎洋がラジオ番組で取り上げた詩を紹介し,解説を加えるスタイルで編集された内容だ。

 それでも久しぶりにいくつかの詩に触れて想うこともあった。

 方言詩がいくつか取り上げられていて,それらが妙に力を持っているなあと感じた。
 「言葉の根っこ」と見出しがつけられて,まとめられていたが,やはり書き手が立ち上がってくるようなイメージがある。
 自分に近い東北弁だけでなくそう感じてしまうのは何故だろうか。

 朴訥で,ありのままに投げ出されたような表現(もちろん実は計算されているのだろうが)が,叫びとしての詩には相応しいのかもしれない。

 島田陽子という詩人はあの大阪弁で書きまくっている人だが,「東京生まれ」というのが意外だった。こんなふうに語っているという。

 「大阪にどっぷり浸かっておられる方よりも新鮮だった」

 それは言葉の扱い手としては有利に働くのであろう。
 今,どんな地方でも方言にどっぷり浸かることがないから,余計に胸をつかれるのかもしれない。

 また逆に,人が心に持っている本音は生まれ育った土地,時期の言葉によってしか表現できないのではないか,という思いも残る。
 だから,知らない土地の方言に込められる熱のようなものを感じているのかもしれない。

 そんなことを考えていると,ふだん「みんなに伝わるような言葉」で,のうのうと記していることなど,非常に薄っぺらに思えてくる。

 伝えようとして,伝えやすい言葉だけを使ったのでは,本当に伝えたいことは伝わらない…そんなおかしな考えにとらわれる。

 方言詩を書く人たちに,ちょっと耳元でささやかれた気がする。

 「お前,言葉の根っこを忘れていないか」と。