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桜と絵本と豆乳と

全員に、人生がある

2015年09月01日 | 読書
 【2015読了】86冊目 ★★
 『我が家の問題』(奥田英朗  集英社文庫)


 家族、家庭をテーマにした6つの短編小説集である。久しぶりの奥田本、相変わらず読みやすく、ゴロリと横になって読む、長風呂の友として読むには最適だ。いつぞや読んだ『家日和』と似ている「家庭小説」?というジャンルなのか。各々が抱えている深刻な、または傍からはそうは見えないような問題がテーマだ。


 冒頭の一行で問題が提示されるパターンが多い。第一話は『甘い生活?』は「新婚なのに、家に帰りたくなくなった。」第二話の『ハズバンド』は「どうやら夫は仕事ができないらしい。」第三話『絵里のエイプリル』は「どうやらうちの両親は離婚したがっているらしい。」…とこんな切り出しで、その家にするっと誘い込む。


 物語のパターンは同一ではないけれど、ほとんどに共通して登場する行為が「リサーチ」である。主人公とも言うべき視点人物は夫、妻、娘それぞれで違いがある。しかしそれぞれが問題解決のため、同僚や友達に問題について意見聴取をしていて、その返答の多くが、ある意味で「我が家の問題」とも読めるのである。


 人は誰しも「問題」を抱えて生きている、という当然のことに気づく。ただそれを「物語」に仕立てられるために、観察力や想像力や構想力などが必要になる。それらが発揮された文章の連なりに引き込まれるからこそ、第5作『里帰り』の中にあった実に平凡な言葉でも、うっと来てしまう。「全員に、人生がある。」



 『我が家の問題』の「問題」は、視点人物以外の家族の誰かの問題として提示される。しかし問題解決は、振りかかってきた自分の行動変化でなしとげられ、結局、心情や姿勢の変容に結びつくという、まさに物語の王道なのである。そして糸口は、これまた常道「小さな勇気」。まさに「小説」の一つの典型と言える。