(20180226 雪消月実景⑥)
2018読了20
『フィンガーボウルの話のつづき』(吉田篤弘 新潮社)
ちょっと不思議な構成だ。16の短編から成っているが、連作と言えるもの、そうでないものと様々である。小説中の「吉田君」が書き上げた、食堂にあるフィンガーボールが「読み取った」客人の話といえる作品もあるし、名前だけ登場するジュールズ・バーンという謎の作家が残した作品も…。みんな、味わい深い。
「声に出して読んでみたくなる」心持ちになったのは久しぶりである。前回読んだ時にも「肌が合う」と感じたが、描写や比喩がすとんと落ちて、ちょうどいい。例えば、話の冒頭はこう始まる。
夕方になり、空気がすっかり青くなると、食堂から主人がぬっとあらわれた。
見事な太鼓腹をさすりながら、店の入口にあるガス燈にぽつんと灯をともす。主人の顔が青い空気の中に浮かびあがる。鼻下にひげ。頭はつるり。琥珀色の目に眉が太い。
心の中に生まれた思いを、少しずつ熱して、高揚させていくようなフレーズもある。小さな舞台上の演劇を観たような気にさせる。ここもとても気に入った。
人生というのは、先に行けば行くほどいろいろなことが奇妙なつながりを見せる。だから「面白い」と言えるし、「怖い」とも思う。はるか昔のたったひと言が、とつぜん姿を変えてのしかかってくることだってあるのだ。
「あなたはいったい何を撃ちたいの?」
その問いに答えるときが、いまになってやってくるなんて。
フィンガーボウル、レインコート、ドアノブと全体の中でキーとなって登場するモノがいくつかあって、その一つが「ホワイト・アルバム」である。ビートルズのあの名盤。そこに刻印されたナンバーが意味を持つ。友達からもらったそのアルバムを、少年がピザの空箱に入れて帰る坂道の情景に、ツンとさせられた。
「Back In The U.S.S.R」で始まり切れ間なく曲が続くこのアルバム。ど真ん中世代ではないが、耳馴染みの曲も多い。一番好きなのはあの「While My Guitar Gently Weeps」だな。4人の才能が溢れ出す作品だ。発売されて半世紀とは思えない。でもAmazonPrimeで聴いているのが少し情けない。外はホワイトアウトの日。