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どこまでも生命を尊重する

2018年03月14日 | 読書
 監察医や検視官などのドラマが取り上げられたのは、この方の影響が大きいだろう。
 何かのセリフにも使われたような気がする、次の文章はプロフェッショナルだけにしか語れない。

「私が扱う死体は、生きているのである。
 生きている人と違うことは、しゃべらないということだけだ。
 だが、生きている人が喋ることには嘘がある。しかし、喋らない死体は嘘をつかない」


2018読了25
 『監察医の涙』(上野正彦  ポプラ社)


 著者は二万もの死体に接してきた。取り上げられた例は様々だ。ドラマ等で登場する作り物とはまた異なる。例えばコインロッカーに捨てられた赤ちゃんが「死産児」か「生産児」か。母子心中がはたして「合意」なのか。自殺の「原因」を語らない家族の心情…死に方とは、一人一人違うものだと今さら納得する。


(20180314 春近しの川辺)

 「過労死」の章に、労災認定をめぐり、家族、監察医、労働基準局のやりとりが記されている。著者がその職にあった頃は過労死が認められない時期だった。著者は現場に立ち会い、意見書を何度も何度も書いた。その努力が今の法制化につながっているのだ。まさに、仕事を通して「生命尊重」の思いが貫かれている。


 地域医療に文字通り命を捧げた父に対する思いが、著者の仕事の核を作っている。また最終章が「妻の死」であり、伴侶が支えた仕事の質量は計り知れない。『監察医の涙』という書名は広い意味の名づけだろうが、一個の人間としては、紛れもなくこの二人に捧げられている。いい仕事を残す人の典型をみる思いがした。