すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

手作りはいつも「未完」

2018年03月30日 | 雑記帳


 このコミックは第1巻をたしか去年の夏頃に買い求めた。結構前の漫画で題名は知っていたし、実写ドラマ化も記憶にある。食に関する漫画は気楽に読めるので手にしたのだが、「職人仕事」の部分もなかなかで気に入った。2巻、3巻と古本屋で見つけたとき買い足し、三月には20巻までネット注文で揃えてしまった。


 浅草を舞台に、主人公「安藤奈津」が和菓子職人を目指して修業に励む道のりが、物語の筋。和菓子好きの興味を惹くだけでなく、江戸文化の要素も盛り込まれ、楽しい。台詞が実に江戸っぽい。頻出する言葉に「おかたじけ」がある。広辞苑には載っていないが「かたじけない」の語幹に御をつけ、感謝を表す語だ。


 大相撲力士が登場する回では、「はっけよい」が漢字で表されている。初めて見た。「発気揚揚」。調べたらこれは相撲協会の審判規定に定められていた。「ハツキヨイ」と漢字通りの意味となる。「バカ」も馬鹿でなく、当て字とはいえ「莫迦」を使う場面がある。人の気持ちを文字で表わす極意の一つを漫画で教えられた。


 失敗して店に出せない饅頭を、捨てろと言われても捨てずに、それを謝りながら全部口にしていく場面など、今ならあまり見られないだろう職人修業の典型が描かれる。主人公の出生の秘密が、話の筋を支える有りがちなパターンではあるが、茶道の教えや店頭販売等絡んでくる話題も豊富で、よく練られた話だった。


 「未完」とは、原作者の病死によって物語が途切れたからである。病床で編集部が話の顛末を聞いたが、漫画化は了解しなかったという。完結までの大きな構想があったからだろうと最終巻に付記されていた。「手作り」にこだわる原作者には、手作りはいつも未完という思いがあったのではなかったか。納得できる。