すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

妄想鑑賞文…その壱

2018年03月18日 | 読書


 俳句を「風景画」とすると、川柳は「人物画」。対象人物は本人か他者か、いずれにしても「自分」が入り込むことは確かだろう。そんな気持ちでここ数日読んでいた川柳集から、お気に入りの句をかつて教室で子どもに書かせた形で短文化しようと思い立つ。句の世界には及ばないと知りつつ、妄想に任せて鑑賞する。

2018読了28
 『石の器』(田口恭雄  編集工房円)



 敵を見る老眼鏡で敵を見る

 何っ!TVから聞こえてきた不正問題の行方は30秒で終わってしまった。どれどれ、新聞をめくれば記事はあるか…と、大きな見出しは読めるが、眼鏡がないとこりゃ駄目だ。おいっ眼鏡、眼鏡はどこに置いたっけ?ほらいつもの所でしょ、本当に駄目ね…と嫌味を投げつけられた人を、眼鏡をかけてまざまざと見る。


 岬まで生命線が伸びている

 久しぶりに鉄道を乗り継ぎ、路線バスを使って旅をする。行先は雑誌写真では見て惹きつけられた、南の岬。窓からその切っ先が見え始めた。初夏の陽を浴び、水面もきらきらと輝いている。「ほら、あそこ」と指さし教えようとすると、隣の君は、うとうとと舟をこぐ。この曲がりくねった海沿いの道は、まだまだ続く。


 新しい墓にまあるい月が出る

 いい男だった。親しい間柄の宴のときも傍らで物静かに笑い、時々発する一言は、みんなを妙に納得させた。働き者で、いつも人のやりたがらない仕事を引き受けてくれる奴だった。突然の病に倒れ、年老いた父母を残し逝ってしまう。七週間後、新しい場所に移された夜。雲から抜け出た月がそこらを照らし始めた。