すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

妄想鑑賞文…その参

2018年03月22日 | 読書
 この句集は1996年から2004年までの作品を、編者である曽我氏が構成したものである。年代別で、後半は作者が闘病生活をしていた時期である。編者がまえがきに記した「僧と俗との分かちがたい混淆」という表現は、この句集の貴重さを示していると同時に、一個の人間のどうしようもない有り様に直結している。

2018読了28
 『石の器』(田口恭雄  編集工房円)




 凛凛とこの世のいのち車椅子

 病院の廊下の窓から、子どもたちが連れ立って自転車を走らせる姿が見える。今は動くに任せないこの自分にも、初めて自転車に乗れたときが確かにあった。大声と笑顔にあふれた日々…。窓から少し強い風が入ってきて、車椅子を動かす手にも思わず力が入る。私も背筋を伸ばして病室までの道をこぎださなければ。


 開かない蕾のままの小宇宙

 買い求めた木瓜の鉢植え。赤く色づき、次々と花びらを開かせるが、固いまま開かない蕾が一つだけある。同じ幹、枝にあっても養分が行き渡らないのか。もしかしたら、外気に触れてたまるか、という意固地な奴だったりして。偏屈なこの俺にも似ているか。しかし、どんな姿にも息づく命があり、巡る水脈はある。


 花火師が己を宙に打ち上げる

 日本一の花火大会に向けて、俺は一心不乱に頑張ってきた。親方のように形のいい「三重芯」を揚げられるよう懸命に腕を磨いてきた。一瞬で消えてしまう花火だが、観客の心の眼に長く残り、何より俺の中で輝き続ける、そんな一発をもうすぐ打ち上げられる。空は少しずつ闇を濃くして、準備万端。さあ、行くぞ!