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桜と絵本と豆乳と

昭和の意味が浮き上がる

2019年01月15日 | 読書


2019読了5
 『木村伊兵衛 昭和を写す1~3』(田沼武能・編  ちくま文庫)



 古本屋の100円コーナーでこのシリーズを見かけたときはおっと思った。ちくま文庫でこんなものも出ていたんだあと、即買い。木村伊兵衛の名前と有名な作品ぐらいは知っているし、昨年「東北の写真学」シンポで話題になったことも印象深い。ただ、今回の三冊の中に東北が舞台になっているものは少なかった。


 1「戦前と戦後」2「よみがえる都市」3「人物と舞台」というラインナップ。編者も木村伊兵衛の流れを汲む人のようで、ポイントは東京の下町生まれ、育ちという点にあるかもしれない。もちろん被写体はそこだけではなく、戦前の満州や沖縄、様々な地方の風俗、そして芸術家のポートレート、歌舞伎等もある。


 解説の一人川本三郎はこんなふうに書いている。「木村伊兵衛は、異質性よりもむしろ同質性にこだわっていく」。つまり、どの地にあっても、どこの人でも変わらないことに目が向くのかもしれない。当然、時代背景からすると、それは労働であり雑踏や喧騒である。日常性であり、裏返しの非日常性もあり得るだろう。


 平成が終わる年になって、ようやく「昭和」の意味がつかめたような気になっている。昭和の63年間は戦争を挟みながら、貫かれてきたことは「働く」だった。働くことが「暮らし」だった時代と言ってよくないか。自分とその周囲の三十数年に照らし合わせても頷ける。写真を見ていてその感情が浮き上がってきた。


 では平成は何かという点はさておき、写真家が切り取る絵には紛れもなく時代性がある。「観察者」に喩えられたりもするが、撮る者が本当に見たいと強く願わなければ、何枚撮っても心には響かないと至極もっともなことを思う。ついつい安易な風景写真に流れる自分だが、ホントは人を撮りたいのだなと実感する。

※このシリーズは4まであり、なっなんとそれが「秋田の民俗」と知ってびっくりした。それだけが異常に高価格なので図書館で探そう(笑)。