すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

本日、地獄の休日なり

2019年01月16日 | 雑記帳
 落語や芝居でしか使われなくなったが「藪入り」という言葉がある。商家の奉公人が親元へ帰ることを許される、お盆の7月16日と正月16日の二日を指す。この日は「地獄の窯の蓋があく」と言われ地獄の鬼が亡者への呵責を休むことから使用人にも暇を与える謂れとなった。地獄の休日という言い方もあるらしい。


 「地獄」とは今さらながら言い得て妙だ。「地下にある牢獄」という意から出来た熟語とされている。幼い頃から絵本や何かでそのイメージが作られてきたわけだが、印象的なのは、やはり芥川龍之介の「蜘蛛の糸」だろうか。そこでは悪行、悪業を重ねた者たちが呻きながら沈み、苦を受ける姿が映し出されていた。


 地獄の意味の一つとして「非常に苦しく、つらい世界・状態」がある。受験地獄(最近はあまり言われなくなった)や借金地獄など一般的に使われる。さて、その意味を想う時今まさに、その地獄に陥った一人の力士が浮かんでくる。言うまでもなく今日引退を発表した稀勢の里である。このブログにも結構書いてきた。


 2016年の秋場所初日に初めて国技館観戦をした。3場所続けて綱取りに挑む大関稀勢の里。今度こそという思いは本人は言うまでもなく、多くのファンが持っていた。注目を一身に集めたその取組。隠岐の海に敗れたその瞬間上がった喚声の後、満員の館内が一瞬しいんとなった。あの光景は、いまだに忘れられない。


 その後の好成績、初場所の優勝で昇進を果たし、人気は絶頂となるが、それは強さと脆さの同居する心身に吸い寄せられるようなファン心理が大きかったのではないか。クライマックスは3月26日の二場所連続優勝を決めた照ノ富士戦だった。結局「名勝負の残す過酷さ」に書いた懸念は、現実となり、地獄は続いた。