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今夜は静かにぬる燗を

2019年01月14日 | 雑記帳
 「ぬる燗」を好むようになってから、まだ十年ちょっとしか経っていないと思う。無茶な飲酒がある種の誇りだった学生時代はともかく、日本酒そのものに興味を持てたのは三十歳近くなってからだ。それも冷酒から入るというよく有るパターンで、燗をした徳利酒など風邪でも引かなければ遠慮したいと思っていた。


 ただ、ぐい呑みはもちろん徳利や片口、さらに燗つけ用のチロリまでいつの間にか揃えてあるのだから、もともと素質はあった(笑)わけだ。先日、よく観るNHKBS『美の壺』がなんと「燗」をテーマに取り上げたので、つい見入ってしまった。「心ほどけるお燗の道具」と題し、様々なお店や愛好者が紹介されていた。


 古い燗つけ器のコレクターが、仲間を呼び愛用品を披露しあいながら、屋外で一緒に飲んでいる風景は羨ましかったなあ。贅沢な時間とはこうした場をいうのだろう。燗をウリにしているお店では、温度設定を三段階に分けた温湯で燗つけするのだった。世界的に珍しい酒を温める習慣が、豊かな文化を生んでいる。


 愛読するコミックでその存在は知っていたが、神楽坂にある専門店?は凄かった。カウンター席の中にある座敷で、店主が燗つけをする。お客は暗めの空間で独り盃を傾けている姿が映し出される。店内にある「希静」の二文字。「静を希う」ということ。ここでは冷たい酒は似合わない。醸し出す雰囲気に圧倒される。


 燗酒、徳利、お猪口といえば、昔はご返杯と言ってお互いにやりとりするのが普通だった。今ならハラスメントと言われるだろう。しかし出演した小泉武夫先生が、その行為の本質をこう語った。「温かいものをやりとりすると、お互いに温かい心が通ずる」。私たちが遠ざけてきた習慣の意味を、もう一度噛み締めたい。