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原理原則の矢を放つ男

2020年02月03日 | 読書
 今野敏の『隠蔽捜査』の新作が出ていた。「清明~8」である。読みたいとは思うが、いつも文庫になってから買うので前作が未読なのである。しかし欲求が高まったので、風呂場読書やページ折厳禁を頭に入れ、図書館から単行本を借りてきた。「7」を寝室読書で楽しむ。いつもながらの「竜崎ワールド」に浸った。


 【棲月 隠蔽捜査7】(今野 敏  新潮社)


 ファンの多いシリーズ、一作でも読んでいる者は、主人公の警察キャリア官僚竜崎伸也の魅力を知っているだろう。原理原則の男、一般常識とされることを正論で揺さぶり続け、周囲を納得させてしまう。今回の巻を読み、この小気味よさは映像ではなかなか表現できていないと、改めてドラマ化が陳腐に思えてきた。


 『波』2月号で著者が新作発刊に合わせ「『隠蔽捜査』はこうして生まれた」と4ページにわたって語っていた。興味深いことが明らかにされていたが、ああそうかと思ったのは、「『竜崎像』は読者それぞれ」という箇所。著者は、竜崎の顔や身体面の特徴を一回も描写したことがないという。えっ、そうなのと驚いた。


 「みなさんの中で『竜崎像』というのはあると思うんです。描写しないと、読者の方がご自分の人生経験から勝手に想像してくれるんです。」と、ここから日本と他国の読者比較もあり興味深かった。個人的な竜崎イメージは大物俳優Nだが、ドラマ化では普通俳優(笑)のJやSが配役されていて、どうもピンとこない。


 竜崎が原理原則を貫く台詞は抜群に格好いい。特に公務員必読である(あっ、まだ自分もだ)。また今回は竜崎が長年勤めた所轄大森署を離れることになり、自身の心理的な変化に気づき動揺したり、得心したりする場面が描かれ、その変容も面白い。舞台は神奈川県警へ。きっとそこでも、原理原則の矢は放たれる。