和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

文通・面会・談話・遊戯・会食・贈答等。

2015-02-19 | 手紙
伊藤正雄著「文章のすすめ」(春秋社)は
前篇が、文字の知識。
後篇が、言葉の智恵。
となっての2冊。

たとえば、前篇をぱらりとめくると

「社会学者清水幾太郎氏は、学者に似合わぬ
達文家である。その著『論文の書き方』と
『私の文章作法』(潮新書・昭和46)は、
自己の体験を土台とした文章論で、
私の知る限り、最も若い人に推奨したい良書といえる。」(p16)

なんて、さりげなく出て来る(笑)。

さてっと、後篇に手紙の章がありました。
そこから一部を引用。

「福沢諭吉は書簡の名人で、どんな相手にも
手紙を出すことを怠らなかった。『福翁百話』にも、
社交上文通の必要な事を力説し、次のように
戒めている。
『人に交はるの法甚だ多端なれども、
これを簡単に約して云へば、
文通・面会・談話・遊戯・会食、
また品物の贈答等に過ぎず。(中略)。
以上述べたる交際法は、易きやうにして
決して易からず。心身活発にして万事に
行き届き、あくまで根気よき人にして
始めて能くすべし。天下の大人は細行を顧みず、
など称して独り自得し、用事もなき人には
文通せざるは勿論、要用の来書に対して
返事せざる者さへ多し。本人の不利のみか、
社会の全面を殺風景にするものと云ふべし。
(58話「交際も亦小出しにす可し」)
・ ・・・・・・・
歴史家の森銑三氏などは、私の本が届くと、
とりあえず受取ったという簡単な礼状を寄越され、
それから暫く後に、改めて読後の感想を詳しく
書いて来られるのが常である。礼状一つで
人間の値打ちが分るのだから、
ゆめゆめ疎かにはできない。」(p262)


ここに、森銑三とある。
さてっと、伊藤正雄氏が森さんへと
送った本は、これかもしれないと
思える箇所がありました(笑)。

「新版忘れ得ぬ国文学者たち」(右文書院)
この解説を坪内祐三氏が書いております。
その解説のはじめに「森銑三は、こう書いていた」
という文を引用しておりました。
その引用箇所を引用しておきます。

「戦後岩本素白翁を通して知った伊藤正雄氏から、
『忘れ得ぬ国文学者たち』一冊を贈られた。
その『国文学者たち』というのは、上田万年・・・
の八人で、岩本翁もまたその中にはいっている。
そしてまた、翁よりも先に亡くなったけれども、
翁同様に私には忘れ難い人となっている沼波先生も、
またその中にある。それで私は、飛びつくように、
まず、沼波、岩本両氏に就いて記された部分を
読んだ。そして他の先生方についての各章は、
読むのをしばらく見合せたままで、
私だけの感慨に耽っている。」


こうして、感慨が綴られたであろう、伊藤正雄氏への
礼状を思い描いてみるのでした。
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