和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

名残(なご)り。

2022-06-19 | 古典
徒然草の第19段と第20段。

第19段に、「年の名残」とあり、つづいて、
第20段に、「空の名残」がある。

名残といえば、イルカさんの『なごり雪』が思い浮かぶなあ。
それはそうと、ガイドの島内裕子さんは第19段をとりあげて、

「 私事にわたるが、私は毎年、元旦の午前中に
  この段(第19段)を読み上げて、過ぎし一年の
  くさぐさと、これから始まる新しい一年に思い
  を馳せ、清澄な気分に包まれる。」
                   (p56 文庫)

うん。ガイドさんが元旦に家で読み上げる。
それだけでも、興味をそそりますが、この段は短くない。
最後の方だけ引用してみます。

「年の暮れ果てて、人ごとに急ぎ合へる頃ぞ、又無く、哀れなる。
 すさまじき物にして、見る人もなき月の、寒けく澄める
 二十日余りの空こそ、心細き物なれ。・・・・

 公事(くじ)ども繁く、春の準備(いそぎ)に取り重ねて、
 催し行はるる様ぞ、いみじきや。追儺(ついな)より、
 四方拝(しほうはい)に続くこそ、面白けれ。

 晦日(つごもり)の夜、いたう暗きに、松ども燈(とも)して、
 夜半過ぐるまで、人の、門叩き、走り歩きて、何事にか有らん、
 事々しく罵りて、足を空に惑ふが、
 暁方(あかつきがた)より、さすがに音無く成りぬるこそ、
 年の名残(なごり)も心細けれ。

 亡き人の来る夜とて、魂祭る業(わざ)は、この頃、都には無きを、
 東(あづま)の方には、なお、する事にて有りしこそ、哀れなりしか。

 かくて、明けゆく空の気色、昨日(きのふ)に変はりたりとは
 見えねど、引き替へ、珍しき心地ぞする。

 大路(おほち)の様、松立て渡して、
 華やかに嬉しげなるこそ、また、哀れなれ。   」


うん。第19段は、最後の方だけ引用したのに、長くなりました。
比べ、第20段は、短いので、こちらは原文・訳・評と全文引用。

「 某(なにがし)とかや言ひし世捨て人の、
  『 この世の絆(ほだし)、持たらぬ身に、  
    ただ、空の名残のみぞ惜しき     』
  と言ひしこそ、真(まこと)に、然(さ)も覚えぬべけれ。」

次にこの訳は

「 誰それとか言う世捨て人が、

 『 この世に、絆は何もないわが身ではあるが、
   季節と時間の推移につれて、刻々と移り変わる
   空の名残の様子だけが心懸かりで、捨て去れない 』

  と言ったのは、本当にその通りだと思われる。    」


はい、最後には島内裕子さんの『評』です。

「 『空の名残』という名句が刻印された段。
 空の名残とは、夕暮に次第に暮れてゆく空の変化を指すと考えられる。

 見上げる人間の心模様を映し出し、受け容れるものとして在り続け、
 日も月も星も輝き、ある時は片雲(へんうん)漂い、時雨降り、
 雪が舞う変幻多彩な空である。

 だから、空の名残が惜しいという心性には、
 今生きて在る生への断ち切れぬ思いがあるだろう。
 空の名残に託した人生の名残。そこにこそ、
 兼好は深く共鳴したのではないだろうか。  」( p57 文庫)


はい。ついついガイドさんの名解説につられて、ついてゆきます。




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