「異国の地で生まれ、出会い、恋に落ちた王女メディアとイアソン、そして二人の間に産まれた三人の子供たち。彼らがたどった数奇な運命とは!?
脚本:フジノサツコ×演出:森新太郎による新たなギリシャ悲劇に井上芳雄、南沢奈央、三浦宏規ら魅力あふれる俳優陣が挑む」
脚本:フジノサツコ×演出:森新太郎による新たなギリシャ悲劇に井上芳雄、南沢奈央、三浦宏規ら魅力あふれる俳優陣が挑む」
ポトラッチと言えば、ギリシャ悲劇はその元祖の一つである。
結論から言うと、この試みは成功していると思う。
というのは、2作を繋げることによって、「アルゴナウティカ」では英雄として大活躍し、数々の試練を経てめでたくメディアと結婚したイアソンが、「メディア」になると妻子を裏切るトンデモない悪者に豹変するというコントラストが際立つだけでなく、当のイアソンは、「自分に都合よく他人を利用する」という行動哲学を終始一貫して保持していたことが判明するからである。
この構成によって、「あの英雄は、実は元から卑劣漢だったのだ!」というメディア(及び観客)のショックが極大化されるわけである(もっとも、「元から卑劣な人間だったことが年を経て判明する」という現象は、離婚事件などではよく見かけることである。)。
それにしても、役者さんたちの声が素晴らしい。
これは当然で、イアソン役の井上さんは言わずと知れたミュージカル・スター(東京芸大声楽科卒)だし、メディア役の南沢さん、子どもたち役のお三方も、やはり皆さん声優としても通用しそうである。
演出の森新太郎さんは、徹底的に「音」にこだわる方のようで、キャスティングもまず「声」ありきだったのではないかと推測する。
前半の「アルゴナウティカ」は、古代ギリシャ都市:イオルコスの英雄イアソンが、黒海最果ての未知の地コルキスから金羊毛皮を取り戻そうとする冒険譚である。
芝居の大きなポイントは、イアソンが功績を挙げるに際しては、彼と結ばれることになるメディアの貢献が不可欠だったというところである。
とりわけ、メディアが故郷を出奔してアルゴー船に乗り込む際、実の弟:アプシュルトスを殺して八つ裂きにした死体をバラまいて追跡者がその裂片を集めている間に時間を稼いで逃げ延びたというエピソードが強調される。
これは言うまでもなくポトラッチとしての殺人(弟殺し)であり、後半の「メディア」にもつながる重要なくだりである。
この「アルゴナウティカ」を法的・政治的観点から表現すると、
「都市中心から政治的階層の息子(=英雄)が領域に降りていき、そこで娘と結ばれ、政治的中心からも領域の組織からも独立の<二重分節>体を実現する」(「デモクラシーの古典的基礎」p329)
ということになる。
かくしてデモクラシーが達成されるのだが、そこに落とし穴があった。
これを指摘したのが、エウリピデスだった。